ラマン分光器、可搬型、符号化開口付き
- Portable, Automatic Raman Shift Measurements & Analysis
- 785 nm Excitation Laser for Fingerprint Region
- Includes Database of Common Chemicals
- Built-In Automatic Calibration
RASP2
Raman Spectrometer with
680 nm & 785 nm Lasers
Application Idea
Spectrometer Sample Compartment Lid Raised to Show Select Accessories Included with RASPA1 Kit (Multi-Purpose Holder, Cuvette Insert, and Cuvette)
RASPA1
Sample Accessories Kit
Please Wait
Key Specificationsa | ||
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Excitation Beam Diameterb | 2.0 mm | |
Signal-to-Noise Ratio (SNR)c | 700:1 (Typical) > 300:1 (Min) | |
Detection Range(s) | RASP1 | 500 to 1800 cm-1 @ 785 nm Excitation |
RASP2 | 500 to 1800 cm-1 @ 785 nm Excitation 2600 to 3700 cm-1 @ 680 nm Excitation | |
Spectral Resolution (FWHM) | RASP1 | < 9.7 cm-1 @ 500 cm-1 < 7.8 cm-1 @ 1800 cm-1 |
RASP2 | < 9.7 cm-1 @ 500 cm-1 < 7.8 cm-1 @ 1800 cm-1 < 9.7 cm-1 @ 2600 cm-1 < 7.8 cm-1 @ 3700 cm-1 | |
Slit Width (Aperture Size) | 2.3 mm x 3.2 mm |
特長
- 可搬型のラマン分光器
- ビーム径Ø2.0 mmにより広視野を確保し、不均一なサンプルにも使用可能
- 指紋領域(fingerprint region)および高周波数領域用の内部レーザ
- 分光器RASP1:指紋領域(500~1800 cm-1)
- 分光器RASP2:指紋領域および高周波数領域(2600 ~3700 cm-1)
- 2.3 mm x 3.2 mmの大きな符号化開口(詳細は「符号化開口」タブ参照)
- 強度は工場でNISTの標準を用いて校正済み(波長/波数はポリスチレンチップと内部ネオンランプで校正)
- ThorRaman Softwareを使用してスペクトルの記録および解析が可能(「ソフトウェア」タブ参照)
- 最大4つの物質に対してサンプル組成分析を自動的に実行
- 参照例としての物質ライブラリが付属
- カスタムライブラリの容易な作製をサポート
- アクセサリーキットRASPA1(別売りです)には、最適なラマン散乱を得るためのサンプルコンテナとポジショナ付き
用途例
- 未知の物質の特定
- 化学成分の分析
- 品質管理(医薬品、食品等)
- 生産現場における化学プロセスの定期的なモニタ
こちらの可搬型ラマン分光器には、当社の革新的な技術である符号化開口(CODA)が組み込まれており、それにより約Ø2 mmのサンプリング領域が得られます。測定値がこの領域全体にわたり平均化されるため、不均一なサンプルを調べるのに適しています。CODA技術により、サンプルに対して低いパワー密度のレーザ光を照射しながら、高いS/N比(700:1)を得ることができます。詳細は「符号化開口」タブをご参照ください。分光器RASP1には785 nmレーザが内蔵されており、指紋領域(500~1800 cm-1)の化学構造を分析できます。デュアルレーザの分光器RASP2は、指紋領域(500~1800 cm-1)と高周波数領域(2600~3700 cm-1)の両方について分析できます。
これらの分光器は、従来のスリット型分光器よりも大きなサンプル体積からのラマン光子を平均化するため、複雑な混合物の分析に適しています。測定されるスペクトルは、サンプル体積内のすべての分子の発光スペクトル(蛍光、ラマンなど)の組み合わせです。事前に記録されたデータベースから最大4つのスペクトルを線形結合させ、それらの比率を変化させて測定されたスペクトルに近似するかどうかを評価し、サンプルの組成を推定します。ソフトウェアと分光器を使用して、お客様独自の物質ライブラリを短時間で作成できます。レーザ波長は付属のポリスチレンチップRPCを使用して校正し、分光器の性能は内部のネオンランプを使用して検証します。
サンプルアクセサリーキットRASPA1(別売りです)には溶融石英または合成石英製のサンプルコンテナおよびホルダが付属します。それらを用いてサンプル位置を調整し、ラマン散乱の発生と検出を最適化することができます。キットに付属するコンテナーホルダ、キュベットホルダおよび粉末サンプル用漏斗は、丈夫なポリアミドPA 2241 FRで作られています。サンプルコンテナは追加購入いただくこともできます。当社では表面増強ラマン分光(SERS)用基板(SERS、別売り、下記参照)をご用意しております。これをポータブル型ラマン分光器と組み合わせて使用することで、ラマン信号を桁違いに増強することができます。
ソフトウェア
ThorRamanソフトウェアを使用して、ラマンスペクトルを記録し、参照用ライブラリ内の分子と比較して分析することができます。ライブラリ内の最大4つまでの分子について同時に分析することができます。参照例としてのライブラリが付属しますが、ソフトウェアを使用してカスタム仕様のライブラリを作成することができます。この参照例のライブラリには、取得パラメータや最後にシステムを校正した日付などの詳細を記載した文書が含まれます。ベースラインの減算と露光時間(通常1~20秒)などのデータ取得パラメータの設定などは、使い易さを考慮してソフトウェアによって自動化されています。ラマンソフトウェアの詳細は「ソフトウェアタブをご覧ください。
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ThorRamanソフトウェアを使用することで、ラマンスペクトルを容易に取得できます。また、ソフトウェアには自動分析機能が備わっています。上のグラフでは、参照ライブラリ内のフッ化カルシウム(CaF2)の指紋領域におけるスペクトル(青い線)を、分光器RASP1を使用して取得したフッ化カルシウム試料のスペクトル(赤い線)に重ねています。
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パラセタモール(アセトアミノフェン)は、熱を下げるための一般的な薬です。上のグラフは、パラセタモールの指紋領域と高周波数領域におけるスペクトルを示しています。青い線は参照ライブラリから得られる同物質のスペクトルを示し、赤い線は分光器RASP2を使用して測定したスペクトルを示します。
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スペクトル分析では、測定されたピークと参照ライブラリから選択された成分との照合を行います。サンプルに対して、最大4つまでの構成物質について分析できます。
Item # | RASP1 | RASP2 |
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System Specifications | ||
Signal-to-Noise Ratio (SNR)a | 700:1 (Typical) > 300:1 (Min) | |
Excitation Beam Diameterb | 2.0 mm | |
Optical Specifications | ||
Excitation Laser Wavelength (Spectral Bandwidth) | 785 nm ± 0.5 nm (< 0.2 nm) | 680 nm ± 0.5 nm 785 nm ± 0.5 nm (< 0.2 nm) |
Laser Output Power (785 nm Laser) at the Laser Output Aperturec | ~300 mW | |
Laser Output Power (680 nm Laser) at the Laser Output Aperturec | N/A | ~150 mW |
Slit Width (Aperture Size) | 2.3 mm x 3.2 mm | |
Detection Range (Wavelength) | 815 nm to 915 nm | |
Detection Range (Wavenumber) @ 785 nm Excitation | 500 cm-1 to 1800 cm-1 | |
Detection Range (Wavenumber) @ 680 nm Excitation | N/A | 2600 cm-1 to 3700 cm-1 |
Spectral Resolution (FWHM, Wavelength) | < 0.65 nm 0.54 nm (Typical) | |
Spectral Resolution (FWHM, Wavenumber) @ 785 nm Excitation | < 9.7 cm-1 @ 500 cm-1 < 7.8 cm-1 @ 1800 cm-1 | |
Spectral Resolution (FWHM, Wavenumber) @ 680 nm Excitation | N/A | < 9.7 cm-1 @ 2600 cm-1 < 7.8 cm-1 @ 3700 cm-1 |
Spectral Accuracy (Wavelength) | ±0.15 nm |
すべての技術データは23 ± 5 °C、相対湿度45 ± 15%(結露なし)で有効です。
Common Specifications | |
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Intensity Calibration (Factory) | |
General Intensity Calibrationa | NIST SRM 2241 |
Wavelength/Wavenumber Calibration (Factory & Customer) | |
Spectrograph Wavelength Calibration (nm) | Internal Neon Lamp |
Laser Wavelength Calibration (cm-1) Conversion via Calibration Chip | RPC Polystyrene Chip (Included) |
Grating | |
Type | Transmission |
Line Density | 1624 Lines/mm |
Center Wavelength | 871 nm |
Diffraction Efficiency (@ Center Wavelength) | > 80% |
Camera/Sensor Specifications | |
Sensor | Monochrome CMOS, Non-Cooled |
Effective Number of Pixels (H x V) | 4096 x 2160 |
Imaging Area (H x V) | 14.131 mm x 7.452 mm (0.56" x 0.29") |
Pixel Size | 3.45 µm x 3.45 µm |
Analog-to-Digital (ADC) Resolution | 12 Bits |
General Specifications | |
Material of Sample Window | Fused Silica, AR Coated |
Power Supply | DS12, 12 V |
Interface to PC | Hi-Speed USB 3.0 |
Dimensions (L x W x H) | 296.7 mm x 190.2 mm x 127.7 mm (11.68" x 7.49" x 5.03") |
Weight | 4.6 kg |
Ambient Operating Temperature Range | 10 °C to 35 °C |
Storage Temperature Range | 0 °C to 55 °C |
RASPシリーズ分光器用ThorRamanソフトウェア
RASPシリーズのラマン分光器を使用するにはThorRamanソフトウェアパッケージが必要です。このソフトウェアは、直観的で応答性に優れた分かりやすいインターフェイスを有しており、全ての機能が1~2クリックで操作できます。左下のソフトウェアのリンクをクリックすると、最新バージョンのThorRamanソフトウェアパッケージをダウンロードできます。
Recommended System Requirements | |
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Operating System | Windows® 10 or 11 (64-Bit) |
Processor (CPU) | Intel Core i5 or Higher, >2.4 GHz |
Memory (RAM) | 4 GB |
Graphic Card Resolution (Min) | 1024 x 768 Pixels |
Hard Drive (Min) | 64 GB of Available Space (SSD >256 GB Recommended) |
Interface | Free High-Speed USB 3.0 Port |
ThorRamanソフトウェアの主な特長
ThorRamanソフトウェアの主な特長を以下に記します。ソフトウェアの詳細はマニュアル(PDF形式)に記載されています。
ラマン散乱の測定
ThorRamanソフトウェアを用いて、校正および調整、ラマン散乱の測定、物質ライブラリの管理、ならびに構成物質のスペクトル分析を行うことができます。ソフトウェアを使用して校正レポート、スペクトル、およびライブラリをエクスポートすることもできます。エクスポートされたスペクトルはThorSpectraソフトウェアを使用して見ることができます。
組込みのスペクトル分析用ツール
測定されたラマンスペクトルは、付属している参照例のライブラリまたはご自身で作成されたカスタム仕様の参照ライブラリから、構成物質を最大4つまで選択して分析することができます。測定されたスペクトルは、ライブラリの物質を組み合わせて構成されたモデル物質のスペクトル、およびそれら2つのスペクトル間の差(ライブラリから構成されたモデル物質では現れなかった信号)とともに表示することができます。
物質ライブラリの管理
ソフトウェアには参照例としての物質ライブラリが付属しますが、ご自身で取得されたスペクトルを用いてカスタム仕様のライブラリを作成することもできます。またThorRamanソフトウェアを使用して、ライブラリをほかのPCにエクスポートして使用することもできます。
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ThorRamanソフトウェアを使用することで、ラマンスペクトルを容易に取得できます。また、ソフトウェアには自動分析機能が備わっています。このグラフは、分光器RASP2のシステム校正を行った際に取得されたポリスチレンとネオンのスペクトルを示しています。
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スペクトル分析では、測定されたピークと参照ライブラリから選択された成分との照合を行います。サンプルに対して、最大4つまでの構成物質について分析できます。(混合物分析ルーチンを適用する前の)生のスペクトルは赤で示されています。
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ThorRamanソフトウェアには様々な物質を参照できるライブラリが付属しています。この参照例としてのライブラリに含まれていない物質を分析するために、ご自身でカスタム仕様のライブラリを作成したり、あるいはThorRaman用の既存のカスタムライブラリを編集して新しい物質を追加したりすることができます。
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分光器RASP2を使用して取得したクエン酸のラマンスペクトル。クエン酸は、すべての好気性生物の代謝で起こるクエン酸回路の中間体です。
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分光器RASP2を使用して取得したシクロヘキサンのラマンスペクトル。溶媒として一般的に使用されるシクロヘキサンは、分子式C6H12のシクロアルカンです。
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分光器RASP2を使用して取得したポリエチレンのラマンスペクトル。ポリエチレン(PE)(ポリエチレンまたはポリ(メチレン))は、主に包装に使用されるポリマです。
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分光器の前面パネル
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分光器の左側面パネル
Front Panel | |
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Callout | Description |
1 | Power Button |
2 | Acquisition Status LED |
3 | Error Status LED |
Side Panel | |
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Callout | Description |
1 | M8 Female Connector for 12 VDC (DS12 Power Connector) |
2 | USB 3.0 Micro B Port |
発送品リスト
符号化開口付き可搬型ラマン分光器RASP1、RASP2には以下のアイテムが含まれます。
- ラマン分光装置
- ACアダプタDS12
- 日本国内対応のAC電源ケーブル
- USB 3.0 A型-Micro B型ケーブル、長さ3 m
- 校正用ポリスチレンチップRPC
- クイック操作マニュアル
- 校正証明書
サンプルアクセサリーキットRASPA1には以下のアイテムが含まれます。
- サンプルアダプタ、漏斗およびキュベットホルダ付き
- VFS1512:1.5 mL 溶融石英製バイアル、Ø12 mm
- VFS5021:5 mL 溶融石英製バイアル、Ø20.5 mm
- 3.5 mL UV溶融石英キュベット、光路長10 mm(2個入り、交換用、型番CV10Q35FEP)
- MS10FS:精密顕微鏡スライド、溶融石英製、24.4 mm x 76.2 mm x 1.0 mm
- PLF1016:ガラスプレート、溶融石英製、Ø25.4 mm、厚さ1.6 mm
- DSH20F:ペトリ皿、溶融石英製、Ø20 mm x 6 mm
符号化開口(CODA)付きラマン分光器
当社のラマン分光器は、分散素子として回折格子を用いたイメージング分光器をベースとしています。従来のこの方式による分光器では、実現したいスペクトル分解能と得られる光のスループットの間にはトレードオフの関係がありました。これは、1つのスリットの像を、分散素子によってスペクトル的に分離された像とするためです。スリットが広くなれば光のスループットは大きくなりますが、スペクトルは分離できなくなり、スペクトルに関する情報は失われます。
これに対して当社のラマン分光器では、従来のシステムにおけるシングルスリットの入射開口の替わりに、符号化開口(CODA)と呼ばれる特定のパターンの複数のスリットを使用しています。この空間振幅変調マスクは、2次元の直交基底を有する畳み込み演算子として機能します。センサから得られたメッシュ画像は、逆変換演算子を用いて再構成されます。マスクの大きなウィンドウ全体に入射した光がエンコード処理されますが、得られるスペクトルの分解能はマスクの単一エレメントの寸法によって決定されます。
このラマン分光器では、純粋な数学エンジンによるアダマール変換が採用されています。詳細は参考文献をご覧ください1。アダマールマトリックスは、1と-1の値のみの要素で構成されます。-1の要素は実際のマスクでは実現できないため、疑似アダマール光学マスクでは、-1と1の値は0(遮光)と1(透過)の強度変調に対応付けされます。必要なスペクトル再構成アルゴリズムは製品に付属する当社のThorRamanソフトウェアに組み込まれており、入射面が大きいことによって生じる光学歪みの補正も行われます。
これらの分光器では開口として64次の疑似アダマールマスクが採用されています。この大きさ2.3 mm x 3.2 mmの空間振幅変調マスクにより、標準的なシングルスリットの入射開口に比べて光のスループットやシステムのエタンデュが改善され、室温動作のCMOSセンサでも十分に検出可能なラマン散乱光が得られます。分光器の入射部におけるエタンデュが大きくなるとスポットサイズを大きくすることも可能になり(Ø1~Ø2 mm)、それにより集光していないレーザービームを使用して試料を励起することができます。これは成分を特定するために広い領域を平均化することが求められる、粉末や錠剤などの不均一な試料の評価に適しています。また、励起ビームが集光されていないとパワー密度が低くなるため、レーザによる試料の損傷リスクを低減させることができます。
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従来型のイメージング分光器で高いスペクトル分解能を得るには、幅の狭いスリットが必要です。それにより分光器に入射する光量が制限されてしまいます。
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符号化開口を用いた分光器は、スリットパターンを利用して高いスペクトル解像度を維持しながら光のスループットを増加させることができます。上の図は2次のアダマールマスクを使用した例ですが、RASPシリーズの分光器には64次のアダマールマスクが使用されています。
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符号化開口と標準的なスリット型開口の大きさの比較。この符号化開口は64次の疑似アダマールマスクになっています。白い領域では光が透過し、黒い領域ではブロックされます。
参考文献
- M.E. Ghem et al., "Static Two-Dimensional Aperture Coding for Multimodal, Multiplex Spectroscopy," Applied Optics, vol. 45, no. 13, 2006.
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様々なタイプの放射光に対応するエネルギー準位
ラマン分光法
ラマン分光法は、固体、粉体、液体、気体などの化学物質の特性評価用として確立された技術です。この技術は、単色光を照射されたサンプルから放射されるラマン散乱光を検出して分析するのが基本です。
ラマン散乱
分子内の原子は化学結合しています。原子の数と結合配置によって、分子の振動の仕方が異なります。それぞれの振動モードは、正確な特定のエネルギーによってのみ励起できます。励起光の光子が分子に吸収されると、再放射される前に振動モードを励起したり、既存の振動モードからエネルギーを吸収したりすることができます。振動モードとの相互作用により光のエネルギーが減少したり増加したりすることは、光子が非弾性散乱することを意味します。この光と物質の相互作用はラマン効果と呼ばれます。 この非弾性散乱(ラマン散乱)による散乱光子のエネルギーと波長のシフトはラマンシフトと呼ばれます。ラマン分光法ではこのラマンシフトを測定します。
ラマン散乱はまれな現象で、おおよそ100万個の励起光子のうちの1個程度で発生します。そのため、高出力光源でサンプルを励起し、できるだけ多くのラマン散乱光を収集して分析することが重要です。十分なラマン散乱を発生させるために、一般にはサンプルに対して高強度の単色レーザ光を照射します。
特定のエネルギー(励起レーザ光)でサンプルの振動状態全体を励起すると物質固有のラマン散乱が発生するため、測定されたラマンスペクトルは物質固有の化学的なフィンガープリント(指紋)と見なすことができます。ラマン分光法によって検出される振動は、赤外(IR)分光法で観察される分子双極子の変調による振動とは異なるため、材料分析における貴重な情報源であり、また他のタイプの振動分光法を補完するものとなっています。
非弾性散乱によるエネルギーシフト
ラマン分光法では、ラマン効果によって生じる非弾性散乱によるエネルギーのシフトを分析します。非弾性散乱光子の波長と励起光波長との関係は、ラマン散乱現象を表す次のエネルギー方程式によって表されます。
ここで、Evibは励起光子の影響を受ける分子の振動エネルギー、Eoutは散乱光子のエネルギー、Einは、励起光子のエネルギーです。
光子のエネルギーと周波数は、次のプランク-アインシュタインの関係式を介して関連付けられます。
ここでh = 6.6260715 x 10-34 J⋅s、finは入射する光子の周波数(単位はヘルツ)です。同様の関係が散乱光子にも当てはまります(Eout = hfout)。
式1と2、およびλ=c/f(cは光速度)から、分子振動のラマンシフトは、正確な励起波長λinを用いて次の式で表すことができます。
ラマン散乱の様子を波長を使って表現すると、精密な励起波長に依存してしまうため不便です。しかし、ラマン散乱をラマンシフトスケール(波数スケール、単位はcm-1)を用いて表現すると、励起波長に依存しなくなります。したがって、異なる実験セットアップ間での物質のラマンスペクトルを比較するために、ラマンスペクトルは非弾性散乱光のラマンシフトの波数(cm-1、X軸)と、測定された相対強度(Y軸)の2Dプロットで表されます。この単位は、ナノメートルとは対照的にエネルギーに比例するスケールです。
レーザの安全性とクラス分類
レーザを取り扱う際には、安全に関わる器具や装置を適切に取扱い、使用することが重要です。ヒトの目は損傷しやすく、レーザ光のパワーレベルが非常に低い場合でも障害を引き起こします。当社では豊富な種類の安全に関わるアクセサリをご提供しており、そのような事故や負傷のリスクの低減にお使いいただけます。可視域から近赤外域のスペクトルでのレーザ発光がヒトの網膜に損傷を与えうるリスクは極めて高くなります。これはその帯域の光が目の角膜やレンズを透過し、レンズがレーザーエネルギを、網膜上に集束してしまうことがあるためです。
安全な作業および安全に関わるアクセサリ
- クラス3または4のレーザを取り扱う場合は、必ずレーザ用保護メガネを装着してください。
- 当社では、レーザのクラスにかかわらず、安全上無視できないパワーレベルのレーザ光線を取り扱う場合は、ネジ回しなどの金属製の器具が偶然に光の方向を変えて再び目に入ってしまうこともあるので、レーザ用保護メガネを必ずご使用いただくようにお勧めしております。
- 特定の波長に対応するように設計されたレーザ保護眼鏡は、装着者を想定外のレーザ反射から保護するために、レーザ装置付近では常に装着してください。
- レーザ保護眼鏡には、保護機能が有効な波長範囲およびその帯域での最小光学濃度が刻印されています。
- レーザ保護カーテンやレーザー安全保護用布は実験室内での高エネルギーレーザの遮光にご使用いただけます。
- 遮光用マテリアルは、直接光と反射光の両方を実験装置の領域に封じ込めて外に逃しません。
- 当社の筺体システムは、その内部に光学セットアップを収納し、レーザ光を封じ込めて危険性を最小限に抑えます。
- ピグテール付き半導体レーザは、他のファイバに接続、もしくは他のファイバとの接続を外す際には、レーザ出力をOFFにしてください。パワーレベルが10 mW以上の場合には特にご注意ください。
- いかなるビーム光も、テーブルの範囲で終端させる必要があります。また、レーザ使用中には、研究室の扉は必ず閉じていなければなりません。
- レーザ光の高さは、目線の高さに設定しないでください。
- 実験は光学テーブル上で、全てのレーザービームが水平を保って直進するように設定してください。
- ビーム光路の近くで作業する人は、光を反射する不要な装飾品やアクセサリ(指輪、時計など)をはずしてください。
- レンズや他の光学装置が、入射光の一部を、前面や背面で反射する場合がありますのでご注意ください。
- あらゆる作業において、レーザは必要最小限のパワーで動作するようにご留意ください。
- アライメントは、可能な限りレーザの出力パワーを低減して作業を行ってください。
- ビームパワーを抑えるためにビームシャッタや フィルタをお使いください。
- レーザのセットアップの近くや実験室には、適切なレーザ標識やラベルを掲示してください。
- クラス3Rやクラス4のレーザ(安全確保用のインターロックが必要となるレーザーレベルの場合)で作業する場合は、警告灯をご用意ください。
- ビームトラップの代用品としてレーザービュワーカードを使用したりしないでください。
レーザ製品のクラス分け
レーザ製品は、目などの損傷を引き起こす可能性に基づいてクラス分けされています。国際電気標準会議(The International Electrotechnical Commission 「IEC」)は、電気、電子工学技術関連分野の国際規格の策定および普及を行う国際機関で、IEC60825-1は、レーザ製品の安全性を規定するIEC規格です。レーザ製品のクラス分けは下記の通りです
Class | Description | Warning Label |
---|---|---|
1 | ビーム内観察用の光学機器の使用を含む、通常の条件下での使用において、安全とみなされているクラス。このクラスのレーザ製品は、通常の使用範囲内では、人体被害を及ぼすエネルギーレベルのレーザを発光することがないので、最大許容露光量(MPE)を超えることはありません。このクラス1のレーザ製品には、筐体等を開かない限り、作業者がレーザに露光することがないような、完全に囲われた高出力レーザも含まれます。 | |
1M | クラス1Mのレーザは、安全であるが、望遠鏡や顕微鏡と併用した場合は危険な製品になり得ます。この分類に入る製品からのレーザ光は、直径の大きな光や拡散光を発光し、ビーム径を小さくするために光を集束する光学素子やイメージング用の光学素子を使わない限り、通常はMPEを超えることはありません。しかし、光を再び集光した場合は被害が増大する可能性があるので、このクラスの製品であっても、別の分類となる場合があります。 | |
2 | クラス2のレーザ製品は、その出力が最大1 mWの可視域での連続放射光に限定されます。瞬目反射によって露光が0.25秒までに制限されるので、安全と判断されるクラスです。このクラスの光は、可視域(400~700 nm)に限定されます。 | |
2M | このクラスのレーザ製品のビーム光は、瞬目反射があるので、光学機器を通して見ない限り安全であると分類されています。このクラスは、レーザ光の半径が大きい場合や拡散光にも適用されます。 | |
3R | クラス3Rのレーザ製品は、直接および鏡面反射の観察条件下で危険な可視光および不可視光を発生します。特にレンズ等の光学機器を使用しているときにビームを直接見ると、目が損傷を受ける可能性があります。ビーム内観察が行われなければ、このクラスのレーザ製品は安全とみなされます。このクラスでは、MPE値を超える場合がありますが、被害のリスクレベルが低いクラスです。可視域の連続光のレーザの出力パワーは、このレベルでは5 mWまでとされています。 | |
3B | クラス3Bのレーザは、直接ビームを見た場合に危険なクラスです。拡散反射は通常は有害になることはありませんが、高出力のクラス3Bレーザを使用した場合、有害となる場合もあります。このクラスで装置を安全に操作するには、ビームを直接見る可能性のあるときにレーザ保護眼鏡を装着してください。このクラスのレーザ機器にはキースイッチと安全保護装置を設け、さらにレーザ安全表示を使用し、安全照明がONにならない限りレーザがONにならないようにすることが求められます。Class 3Bの上限に近いパワーを出力するレーザ製品は、やけどを引き起こすおそれもあります。 | |
4 | このクラスのレーザは、皮膚と目の両方に損傷を与える場合があり、これは拡散反射光でも起こりうるとみなされています。このような被害は、ビームが間接的に当たった場合や非鏡面反射でも起こることがあり、艶消し面での反射でも発生することがあります。このレベルのレーザ機器は細心の注意を持って扱われる必要があります。さらに、可燃性の材質を発火させることもあるので、火災のリスクもあるレーザであるとみなされています。クラス4のレーザには、キースイッチと安全保護装置が必要です。 | |
全てのクラス2以上のレーザ機器には、上記が規定する標識以外に、この三角の警告標識が表示されていなければいけません。 |
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推奨されるアクセサリ(別売りです)
- サンプルアクセサリーキットRASPA1
分光器およびキットRASPA1に含まれるアクセサリの一覧は「発送品リスト」タブでご覧いただけます。
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分光器RASP2のサンプルコンパートメント内のコンテナーホルダと5 mLバイアル(アクセサリキットRASPA1に含まれます)。
- 2.3 mm x 3.2 mmの符号化開口付きイメージング分光器
- 内蔵されている励起レーザ
- 分光器RASP1:785 nmレーザ(指紋領域)
- 分光器RASP2:785 nmおよび680 nmレーザ(指紋領域および高周波数領域)
- NIST認定多項式(NIST SRM2241)によりラマン信号強度の補正済み
- 付属のRPC校正チップと内蔵のネオンランプを使用して波長/波数の校正が可能
- サンプルコンパートメントは簡単にクリーニング可能
RASPシリーズのラマン分光器は可搬型のシステムで、低強度のラマン信号の検出に適しています。2種類のタイプをご用意しています。分光器RASP1は指紋領域(500 cm-1~1800 cm-1)に対応する785 nmレーザを内蔵しており、分光器RASP2はこれに加えて高周波数領域(2600 cm-1~ 3700 cm-1)に対応する680 nmレーザも内蔵しています。各システムはレーザを内蔵しているほかに、特長として体積型ホログラフィック回折格子と光のスループットを向上させる大型の符号化開口(CODA)を備えた、イメージング分光器であることが挙げられます。セーフティーインターロック機能により、内部のClass 4のレーザ光に曝露されることを防止できるため、システムのレーザとして分類されるクラスがClass 1まで低くなります。
ソフトウェア
これらの分光器ではThorRamanソフトウェア(こちらからダウンロードいただけます)を使用してスペクトルを記録できます。必要なシステム要件については「ソフトウェアタブ」をご覧ください。各製品には、システムとPC(付属しません)を接続するためのUSB 3.0ケーブルが付属します。システムの電源は付属の12 VDC電源から供給できます。
信号強度の補正および校正
回折格子の効率やディテクタの感度など、分光器のコンポーネントの特性には波長依存性があります。これらを補正するために、分光器を工場で校正する際にNIST標準のSRM2241を用いて信号強度の補正を行っています。これにより、取得したスペクトルおよびカスタムライブラリと、外部データベースやRASPシリーズのほかの分光器との整合性が保証されます。ご自身で行う校正は、付属のRPCポリスチレンチップと内蔵のネオンランプを使用して行います。
サンプルコンテナおよびアクセサリーキット
小さな固体サンプルは、直接サンプルウィンドウに設置することができます。液体および粉末のサンプルはシステムを汚染することがあるため、ガラスコンテナをご使用ください。アクセサリーキットRASPA1(下記掲載)には、溶融石英や石英製の様々なコンテナのほかに、検出体積内でサンプルの位置を調整して最適なラマン散乱の発生と検出をするためのポリアミド製ホルダが付属します。追加のコンテナも別途ご購入いただけます(下記参照)。
サンプルコンパートメントの内部をクリーニングする際は、わずかに湿らせた布と必要に応じて少量の石けんをご使用ください。大量の液体の使用は、システム内部の汚染につながりますのでお避け下さい。
RASPA1 Accessory Kit Contents | ||
---|---|---|
Item # | Callouta | Description |
VFS1512 | 1 | 1.5 mL Vial, Ø12 mm, Fused Silica |
VFS5021 | 2 | 5 mL Vial, Ø20.5 mm, Fused Silica |
CV10Q35FEPb | 3b | 3.5 mL Cuvette, Synthetic Quartz Glass |
MS10FS | 4 | Microscope Slide, 1 mm Thick, Fused Silica |
PLF1016 | 5 | Ø1" Glass Plate, 1.6 mm Thick, Fused Silica |
DSH20F | 6 | 1 mL Petri Dish, Ø20 mm x 6 mm, Fused Silica |
- | 7 | Four-Orientation Container Holderc |
- | 8 | Sample Funnel Insertc |
- | 9 | Cuvette Holder Insertc |
- アクセサリーキットRASPA1にはサンプルコンテナとホルダが含まれます。
- サンプルコンテナ:溶融石英製または合成石英製
- ホルダ、漏斗状インサート:PA 2241 FRポリアミド製
- サンプルコンテナは単体でもご購入いただけます。
- キュベットCV10Q35FEPは2個セットです。
サンプルコンテナ用アクセサリーキットRASPA1には、右の表に示すアイテムが含まれています。4方向コンテナーホルダ、キュベットホルダーインサート、サンプル用漏斗状インサート(全て丈夫なポリアミドPA 2241 FR製)は、上記の分光器のサンプルコンパートメントに取り付けられます。大きなホルダを適切な向き(左写真または分光器のマニュアルを参照)にセットすると、コンテナは直ちにラマン散乱の励起と検出を行ううえで最適な位置に配置されます。
空のコンテナホルダのテンプレートの図面ファイルはこちらからご覧いただけます。これは、カスタム仕様のラマンシステム用コンテナホルダを設計して3Dプリントするためのベースとしてご使用いただけます。サンプルコンテナ用のカットアウトを作成するときに、サンプルの最適な置き方が分かるように、レーザービームの経路をカットアウトで示すようにしています。
ガラスコンテナとアクセサリは溶融石英または合成石英で作られており、単体でもご購入いただけます。 バイアルとキュベットに付属するキャップのセプタムはPTFE製です。
- Ø25.4 mmポリスチレンチップRPC:RASPシリーズ分光器に付属するチップの交換用
- ポリスチレンブロックRPB:キュベットの形状を有する代替校正用試料
ポリスチレンチップRPCおよびポリスチレンブロックRPBは、RASPシリーズのラマン分光器における校正用試料の交換品としてご使用いただけます。RASPシリーズの各ラマン分光器にはポリスチレンチップRPCが1つ付属します。
Key Specifications | |
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SERS Active Material | Gold |
Active Area | 4.3 mm x 4.3 mm |
Laser Wavelength (Recommended) | 785 nm |
Minimum Power Densitya (Recommended) | 0.1 W/cm2 |
Lifetimeb (Recommended) | <6 Months |
Dimensions (L x W x H) | 4.5 mm x 4.5 mm x 0.5 mm (0.18" x 0.18" x 0.02") |
- 金コーティングされた溶融石英製テクスチャー基板
- 寸法:4.5 mm x 4.5 mm x 0.5 mm
- 活性領域:4.3 mm x 4.3 mm
- 785 nmの励起レーザ用に最適化
- 当社のポータブル型ラマン分光器およびモジュール式ラマン分光用キットに対応
- 5個入りセットもご用意
表面増強ラマン分光用基板RCT4Mは、ラマン散乱信号を桁違いの大きさにまで増強できるSERS法で使用するように設計されています。この金コーティングされた石英製のテクスチャー基板を使用すると、ppbレベル(~10億分の1)*の低濃度の成分でも検出できる感度が得られます。標準的なラマン分光法と比較して、低濃度の試料に非常に小さなパワーのレーザ光を照射しても測定することができます。
SERS基板は785 nmの励起レーザ用に最適化されており、当社のポータブル型ラマン分光器にご使用いただけます。プラズモニックナノ構造の損傷や装置の汚染を避けるため、基板の活性領域が試料用の窓に直接接触しないようにしてください。RASPシリーズの分光器への取付け方法等についての詳細は、当社までお問い合わせください。
SERS基板は真空バッグに封入されています。最良の性能を得るために、基板を真空中に保管しない場合は6ヶ月以内に使用することを推奨します。詳細は表面増強ラマン分光(SERS)用基板の製品紹介ページをご覧ください。
*感度は、分析対象物、入射レーザ光パワー、積分時間などの実験条件に依存します。