HeNeレーザーのチュートリアル


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用途例

  • 計測
  • 干渉計
  • DNAシーケンシング
  • 食品選別
  • フローサイトメトリ
  • 共焦点(コンフォーカル)顕微鏡
  • イメージングおよび医療機器
  • 不透明度のモニタリング
  • アライメント
  • 海上視線誘導システム
  • 血液学
  • 半導体の検査
  • 偏光実験

概要

HeNeレーザは、様々な研究や産業活動で使用されている小型のガスレーザです。このレーザでは、主に可視の赤色光である632.8 nmの波長が使用されています。当社では、赤色HeNeガスレーザとして、0.5~22.5 mWの安定な出力と基本ガウスビームが得られる様々な製品をご用意しています。 出力光の偏光については、直線偏光型とランダム偏光型(時間の経過に伴って変動)の製品がございます。

HeNeレーザの利得媒質はヘリウムとネオンが約10:1(5:1~20:1が一般的)の比率で混合された気体で、ガラス管に低い圧力で封入されています。このレーザの励起源は、ガラス管の両端にあるアノードとカソード間の高電圧による電気放電です。このレーザの光共振器は、レーザ管の片方の端に配置された反射率の高い平面ミラーと、もう一方の端に配置された透過率が約1%の出力用凹面ミラーで構成されています(下の図1参照)。HeNeレーザには小型のものが多く、共振器長は15 cm~1 m程度です。図1の下の表に、HeNeレーザの様々なパラメータの典型値を示します。

HeNe Schematic
図1: HeNeレーザの共振器と出力ビーム。HR: 高反射リフレクタ、 OC: 出力カプラ、L: 共振器長、D: ビームウェスト径、α: ビーム広がり角(全角)
Typical HeNe Parameters
Beam Waist Diameter (D)1 mm
Full Angle Beam Divergence (α)1.5 mrad
Reflectivity at High Reflector (HR)>99.99%
Transmission at Output Coupler (OC)~1%
Typical Lengths and Powers:MinimumMaximum
Cavity Length (L)0.15 m1 m
Output Power (P)0.5 mW22.5 mW

HeNeレーザの波長と線幅

赤色HeNeレーザの波長はしばしば632 nmまたは633 nmと言われますが、大気中での波長は632.816 nmです。HeNeレーザの利得は、実際には複数の縦モード(軸モード)から構成されています。それらのモードは、共振器長の熱による膨張/収縮やその他の外的要因に伴って、利得曲線の範囲内で変動します。

HeNeレーザの線幅は、ミラーと共振器の特性によって決定されます。HeNeレーザの縦モードの構造は、モード数、フリースペクトルレンジ(FSR)、およびドップラー幅によって、その特徴を示すことができます(下図参照)。各縦モードの線幅は一般に狭い(~kHz)ですが、利得曲線は比較的広く(~GHz)なっています。レーザ発振する縦モードは、典型的な幅が約1.5 GHzの広い利得曲線内に含まれるモードです。この約1.5 GHzのドップラー幅で、HeNeレーザの発振線幅が決定されます。多くの干渉系の用途において、最も関連するパラメータはコヒーレンス長です。これは、最も離れた縦モード間の間隔によって決定されます(この間隔は主に利得曲線の幅によって決定されます)。ローレンツ型スペクトルを有する光源のコヒーレンス長は、式 L=c/piΔfで与えられます。ここでc は光速度、Δf は光源の線幅です。約1.5 GHzのドップラー幅を有する利得曲線から、赤色HeNeレーザのコヒーレンス長を計算すると約6 cmになります。

HeNe Gain Curves
図2: HeNeレーザの2種類の共振器長の利得曲線と縦モード。L: 共振器長、P: 出力光パワー、FSR: フリースペクトルレンジ

HeNeレーザの偏光

一般的なHeNeレーザでは共振器内に偏光素子を置かないため、1つの縦モードでは軸に対して直交する2軸のうちの一方の軸方向に直線偏光し、それに隣接する縦モードでは他方の軸方向に直線偏光します。温度の影響により共振器の長さは変化するため、それに伴って個々の縦モードの周波数が変化します。その結果、個々のモードは利得プロファイルの中を移動するように変化します。

図2の左のグラフは、共振器長の短いレーザ(L=0.15 m、P=0.5 mW)の例を示しており、ある瞬間では1つまたは2つのモードでレーザ発振します。1つのモードだけで発振している場合は、ビームは直線偏光になります。2つのモードで発振している場合は、直交する直線偏光の両方のビームがパワーを有します。なお、2つの縦モードの偏光は異なるため、2つのモード間の相対位相は時間とともに変化し、ビームの偏光状態も変化することに注意してください。 この偏光状態の変化は、モードが利得プロファイルの中で変化しているときに、1つのモードの偏光方向にアライメントされた偏光子をビーム経路に設置することで観察できます。ディテクタを偏光子の前に置くと測定値は安定していますが、ディテクタを偏光子の後に置くと測定値はゼロと最大強度(全ビームパワー)の間で変動します。

図2の右のグラフは、共振器長の長いレーザ(L=0.5 m、P=17 mW)の例を示しています。この場合は利得プロファイル内に常に複数の発振モードが存在し、常に直交する直線偏光の両方のビームがパワーを有します。このようなレーザでは、隣接するモードの偏光が必ずしも完全に交互に入れ替わるとは限らないことに注意する必要があります。このようなレーザではレーザ発振するモードがより不安定になり、モード間でパワーが変動します。しかし、どのような状態であっても全パワーは比較的安定しています。

HeNe Energy Levels
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図3: HeNeレーザに関連するエネルギー準位。ネオンの3p準位のサブ準位は、利用可能な可視の遷移が参照できるように詳細に記載しています。その他のネオンのサブ準位は、図を簡単にするために省略しています。ネオンの4s準位のエネルギーは19.78 eVです。

レーザの起動時には、共振器が動作温度に達するまで、多くのモードが利得曲線内を高速で動きます。通常動作になると、次第にその時間スケールが数秒から数時間くらいまで長くなりますが、やはりモードの動きは止まりません。以上のように、補償/安定化機能のないHeNeレーザは、時間の経過とともに各偏光状態のパワーが変動するため、偏光に敏感なアプリケーションには使用できません。

直線偏光HeNeレーザ
上記のような問題を回避するために、ブリュースターウィンドウのような偏光光学素子を共振器内部に設置したHeNeレーザも作られています。1つの偏光を選択的に減衰させることで、全てのモードを同じ直線偏光にすることができます。直線偏光HeNeレーザは偏光に敏感なアプリケーション用に適しており、一般にその偏光軸も表示されています。

HeNeレーザに関連するエネルギー準位

HeNeレーザに関連するエネルギー準位と遷移の概要を、右の図3に示しています。レーザ発振のプロセスは、高電圧放電による電子とガス状態の原子(HeとNe)との衝突から始まります。ネオン原子よりも多いヘリウム原子(典型的なHe:Neの比率は約10:1)は、衝突によって優先的に高いエネルギー状態に励起されます。 励起されたヘリウム原子とネオン原子が衝突すると、ネオン原子は準安定励起状態に励起されます。このネオンの励起状態のエネルギーは、励起されたヘリウム原子のエネルギーとほぼ同じです。励起されたネオン原子は、その後3p準位と3s準位を経由して基底状態の2p準位に戻ります。反転分布が実現されると、5sから3pへの遷移に伴って波長632.816 nmの光が誘導放出されます(図3の赤い矢印)。このとき、その他の波長の光も放出されます(図3および以下の段落を参照)。ネオンの下準位の原子数は電流に対してリニアに変化しますが、上準位の原子数は高電流になると飽和してしまいます。それにより、HeNeレーザの出力には限界が生じます。

レーザ共振器のミラーと共振器長は、レーザ発振させたい波長に合わせて選択することができます。 図3に示すように、赤外域の遷移として3.39 µmと1.15 µmがあります。前者は5s準位から4p準位への遷移、後者は4s準位から3p準位への遷移によるものです。5s準位から3p準位の様々なサブレベルに選択的に遷移させることも可能です。この遷移を利用して、緑色(543.365 nm)、黄色(593.932 nm)、イエローオレンジ(604.6 nm)などの可視波長域の光を選択的に誘導放出することができます。これらの遷移に対応する3p準位のサブレベルは、図3に色分けして示されています。最も一般的な波長632.8 nmの赤色HeNeレーザは、1.15 µmや3.39 µmのような他の波長のHeNeレーザに比べて、利得の非常に低いレーザです。

環境について

レーザの優れた性能を発揮させるには、使用環境は重要な因子です。汚染された環境では光学素子も汚染され、出力されるパワーも期待される値を下回る場合があります。また、大きな振動を伴う雑音の多い環境では、出力ビームも不安定になる場合があります。周囲の振動の影響は、光学テーブルに正しく取り付けることで低減できます。レーザを使用する環境の温度変化が大きいと、出力光パワーが大きく変動することがあります。HeNeレーザには後方反射の影響を受けにくい性質がありますが、大きな後方反射がレーザに入射すると、出力光パワーに予測できない変動が生じる場合があり ます。フリースペース用アイソレータを使用すれば、このような影響の抑制や除去を行うことができます。HeNeレーザは、単一周波数や長いコヒーレンス長を必要とする用途や実験には適していません。


Posted Comments:
David Marco  (posted 2024-09-27 11:45:08.04)
Dear Thorlabs Team, My name is David Marco, and I am a researcher at the Universidad Miguel Hernández de Elche (Spain). I have been reviewing your website and came across a description regarding randomly polarized helium-neon lasers. Specifically, it was mentioned that "the output of a randomly polarized HeNe laser consists of a rapidly fluctuating, linearly polarized beam whose polarization orientation changes on a nanosecond time scale." I am very interested in learning more about the underlying principles and characteristics of this behavior. Could you kindly provide any scientific papers or reference materials that offer further explanation or research on this topic? I appreciate your time and assistance and look forward to your response. Best regards, David Marco Universidad Miguel Hernández de Elche
tdevkota  (posted 2024-10-02 11:47:06.0)
Thank you for reaching out to Thorlabs. A standard HeNe laser emits several longitudinal modes, with the number depending on the resonator's tube length. In red HeNe lasers, adjacent modes typically have polarization axes that are orthogonal to each-other, and the relative intensities of these modes fluctuate periodically over time as the laser cavity length changes due to thermal effects. I have contacted you directly with more information.