BBO結晶、SPDC(自発的パラメトリック下方変換)用
- Optimized for Type I and Type II Spontaneous Parametric Down Conversion
- Source for Polarization Entangled Photons or Heralded Single Photons
- Cut for Normal Incidence with 405 nm, 532 nm, or 775 nm Pump Lasers
- Available in Thicknesses of 1.00 mm, 2.00 mm, and 3.00 mm
When one of these β-BBO Crystals is mounted in the RSP1 mount, the crystal will be centered over the 8-32 (M4) hole in the mount's base without the need for spacers.
NLCQ1
1.00 mm Thick, θ = 29.2°
5.0 mm Aperture
Please Wait
Key Common Specificationsa | |
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Material | β-BBO (beta-BaB2O4) |
Aperture | Ø5.0 mm |
Clear Aperture | > Ø4.0 mm |
Transmitted Wavefront Error | λ/3 @ 632.8 nm Over Clear Aperture |
Surface Quality | 20-10 Scratch-Dig |
Optic Axis Angleb Tolerance | ±0.5° |
特長
- 自発的パラメトリック下方変換(SPDC)用に最適化されたβ-BBO (beta-BaB2O4)結晶
- タイプIまたはタイプII のSPDC
- コリニアおよびノンコリニアでのSPDC
- 405 nm、532 nm、または775 nmの励起(ポンプ)レーザ用に設計
- 筐体には回転軸と偏光方向の刻印
当社の自発的パラメトリック下方変換(SPDC)用に最適化されたβ-BBO 結晶は、タイプIまたはタイプIIの自発的パラメトリック下方変換(SPDC)用に設計されています。この非線形プロセスでは、エネルギーの高い励起光の単一光子が、エネルギーと運動量の両方を保存しながら、よりエネルギーの低いシグナル光とアイドラ光の光子ペアに周波数下方変換されます。SPDCは一般的に偏光エンタングル光子対の光源として、あるいは伝令付き単一光子源として使用されています。タイプIのSPDCから出力されるシグナル光とアイドラ光の偏光は同じであり、励起光の偏光と直交します。タイプIIのSPDCから出力されるシグナル光とアイドラ光の偏光は、互いに直交しています。タイプIまたはタイプIIのSPDC用結晶をご用意しており、コリニアおよびノンコリニアの両方に対応する製品もございます。これらは励起波長405 nm、532 nm、または775 nm用に設計されています。
SPDCは和周波発生(SFG)の逆過程であり、縮退している場合は第2高調波発生(SHG)の逆過程になります。そのため、こちらのBBO結晶は、第2高調波発生用に設計された結晶と非常によく似ています。主な違いは結晶の長さ(厚さ)です。SHG用の結晶は、典型的なパルス持続時間内での群速度の差で生じるウォークオフに対応するように設計されています。対照的に、SPDCの過程ではそのような制限はありません。そのため、より高い効率(より多くのシグナル・アイドラ光子数)を得るために厚い結晶を使用することができますが、そうすると一方で光子の波長-位置の相関が不明瞭になります。要求条件の異なる様々なアプリケーションに対応できるように、SPDC用に最適化されたBBO結晶として、厚さ1.00 mm、2.00 mm、および3.00 mmの製品をご用意しています。
各結晶には、励起光、シグナル光、およびアイドラ光の全波長において低反射率となるような反射防止(AR)コーティングが施されています。ARコーティングの性能については、「仕様」タブのグラフをご覧ください。こちらの結晶は、開口径Ø5.0 mmのØ25.4 mm(Ø1インチ)筐体に取り付けられています。筐体には、入射する励起ビームの偏光状態と伝搬方向に対して、結晶を位相整合させるのを補助するために、アライメント用ガイドが刻印されています(下記の「SPDCを最適化するためのアライメント方法」のセクションをご覧ください)。
励起光子とシグナル・アイドラ光子を分離するために(特にコリニアSPDCの場合)、光学濃度の高いロングパスフィルタをご使用ください。7以上の光学濃度が推奨されますが、この濃度は一般に1枚のフィルタでは得られません。これらの結晶では可視~近赤外域のシグナル光子とアイドラ光子を生成しますが、この波長域ではシングルフォトン検出モジュールSPDMAなどが単一光子の実用的な検出器です。
SPDCを最適化するためのアライメント方法
各結晶の筐体前面には、入射する励起ビームの偏光方向(2ωと表示)と、それに直交するSPDCで生成されるシグナル光・アイドラ光の偏光方向(1ωと表示)が刻印されています。BBO結晶の前にゼロオーダの1/2波長板を置いて、直線偏光している励起ビームの偏光方向を回転調整し、結晶の2ω軸に一致させることができます。 筐体中央のRotation Axisと書かれた線は、励起ビームの伝搬方向と結晶の光学軸の間の角度を調整するために結晶を回転させる軸を示しています。
当社では、これらの結晶を回転マウント RSP1/M に取り付け、さらにそれを手動回転ステージ (型番 XRNR1/M や RP01/M など)に取り付けることを推奨しています(左下の写真参照)。結晶の筐体をマウントRSP1/Mに取り付けたとき、スペーサや追加の固定リングを使用しなくても、結晶はマウント底面のM4ネジ穴の真上の中心に配置されます。そのため結晶は回転ステージRP01/Mの中心に配置され、位相整合角を最適化するために必要な入射角の微調整が可能になります。こちらの例では、結晶は水平方向に偏光した励起ビーム用の向きに設定されています。
β-BBOのSPDC過程を最適化するための位相整合は、励起ビームの偏光を結晶の主軸である異常光の軸(2ωと表示)に平行に合わせ、次に光学軸と励起ビームの伝搬方向の間の角度を調整することで達成されます。下記の結晶の光学軸と表面法線の間の角度は、表に記載されている設計波長の光を垂直入射したときに、位相整合が最適化されるように設定されています。コリニアまたはノンコリニアで要求された位相整合条件を達成するには、励起光の入射角を表面法線の回りに±1°の範囲で微調整する必要があります。より大きな角度調整を行えば、異なる波長の励起レーザとの位相整合が可能になります。入射光角度(AOI)と位相整合波長の関係は「仕様」タブのグラフでご覧ください。
使用方法および取扱い方法
BBO結晶を取り扱うときは、常に手袋を装着して慎重に行ってください。BBO結晶は傷つきやすく、吸湿性があります。そのため、湿度の高い環境といった周囲の過剰な水分から保護する必要があります。高湿度環境においては、乾燥剤の使用は結晶の寿命を延ばすうえで有用です。埃の除去は、必要に応じて清潔で乾燥した空気を軽く吹きかけるだけにすることをお勧めします。手順は、 光学素子の取扱いについてのチュートリアルにおける「光学素子の表面から異物等を吹き飛ばす」のセクションで詳しく説明されています。
Item # | NLCQ1 | NLCQ2 | NLCQ3 | NLCQ4 | NLCQ5 | NLCQ6 | NLCQ7 | NLCQ8 | NLC07 | |
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Material | β-BBO (beta-BaB2O4) | |||||||||
Crystal Thickness | 1.00 mm | 2.00 mm | 3.00 mm | 1.00 mm | 2.00 mm | 3.00 mm | 3.00 mm | 3.00 mm | 3.00 mm | |
Crystal Thickness Tolerance | ±0.05 mm | ±0.05 mm | ±0.05 mm | ±0.05 mm | ±0.05 mm | |||||
Angle of Optic Axisa (θ) | 29.2° | 41.8° | 26.9° | 22.2° | 19.8° | |||||
Optic Axis Anglea (θ) Tolerance | ±0.5° | ±0.5° | ±0.5° | ±0.5° | ±0.5° | |||||
Application | Type-I SPDC | Type-II SPDC | Type-I SPDC | Type-I SPDC | Type-I SPDC | |||||
Collinear vs Noncollinear | Both | Both | Collinear | Collinear | Both | |||||
Pump Wavelength at AOI = 0° | 405 nm | 405 nm | 405 nm | 532 nm | 775 nm | |||||
Signal Wavelength at AOI = 0° | 810 nm | 810 nm | 586 nm | 810 nm | 1550 nm | |||||
Idler Wavelength at AOI = 0° | 810 nm | 810 nm | 1310 nm | 1550 nm | 1550 nm | |||||
Angle of Incidence Tuning Sensitivityb | ||||||||||
AR Coating, Entrance Face, 0° AOI | R< 0.5% at 405 and 810 nm | R< 0.5% at 405 nm | R< 1% at 532 nm | Ravg< 4% 650 - 850 nm and 1300-1700 nm | ||||||
AR Coating, Exit Face, 0° AOI | R<3% at 586 and 1310 nm | R<2.5% at 810 and 1550 nm | ||||||||
AR Coating Curves | Raw Data | Raw Data | Raw Data | Raw Data | ||||||
Laser Induced Damage Threshold | 9.5 J/cm2 (532 nm, 5.3 ns, 100 Hz, Ø218 μm) | 0.6 J/cm2 (1550 nm, 52 fs FWHM, S-Pol, 104 Pulses) | ||||||||
Aperture Diameter | Ø5.0 mm | |||||||||
Clear Aperture | > Ø4.0 mm | |||||||||
Mounted Diameter | 1" (25.4 mm) | |||||||||
Surface Quality | 20-10 Scratch-Dig | |||||||||
Transmitted Wavefront Error | λ/3 @ 632.8 nm Over Clear Aperture |
Physical and Optical Properties | ||
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Material | β-BBO (beta-BaB2O4) | |
Crystal Structure | Trigonal, Space Group R3c | |
Transparency Range | 189 - 3500 nm | |
Second-Order Nonlinear Coefficients | d21 = 2.2 pm/V d31 = 0.08 pm/V d22 = 2.2 pm/V | |
Nonlinear Refractive Index (Kerr Index)a | 4.9 x 10−20 m2/W @ 1032 nm | |
Sellmeier Coefficientsb | Ordinary Ray | |
Extraordinary Ray | ||
Thermal Conductivity | 1.2 W / m ⋅ K (⊥ C) 1.6 W / m ⋅ K (|| C) | |
Mohs Hardness | 4.5 Mohs | |
Density | 3.85 g/cm3 |
自発的パラメトリック下方変換と位相整合
自発的パラメトリック下方変換(SPDC)は、相関光子対の生成プロセスとして一般的に用いられている技術です。SPDCでは、非線形結晶の内部で励起(ポンプ)光の単一光子から2つの光子が生成されますが、その際にエネルギーと運動量の両方が保存されます。2つの光子は実質的に同時に生成されるため、一方の光子をもう一方の光子の存在を知らせるための信号として利用することができます。これにより、単一光子の測定が可能になります。そのため、シグナル光とアイドラ光は、伝令光子および伝令付き光子と呼ばれます。さらに、縮退したType-IIのSPDCを用いれば、偏光エンタングル光子対を生成することができます。
β-BBO結晶内でのSPDCを最適化するには、励起レーザの波長に適した結晶のカット角度と、必要とする下方変換プロセスの位相整合条件を選択する必要があります。 各結晶の入射角調整感度曲線は、「仕様」タブ内のグラフでご覧いただけます。グラフ化されたデータの解釈や、下方変換光を生成するうえでの結晶の効果的な使用方法など、詳細な情報は以下の各セクションを展開してご覧ください。
質問をクリックするとそのセクションが展開して説明が表示されます。元に戻すにはもう一度クリックしてください。
非線形光学とは?
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図1:ビーム光が線形媒体内を伝搬するときは、位相を積算しながら強度が減衰しますが、ビーム内の光子間に相互作用はありません。そのため、入射光の電界(Ein)と出射光の電界(Eout)は同じ周波数(ω)を有し、その強度は正比例します。
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図2:この非線形光学媒体では、入射光は図1と同じですが第2高調波を生成します。出射光には図1と同様に基本周波数の光が含まれますが、それに加えて周波数が2倍の光(倍波)も含まれており、その電界強度Eout(2ω)は入射光の電界強度の2乗に比例します。
非線形光学効果とは、光が物質内を伝搬するときに、その物質の性質を変化させることで発生するさまざまな非線形現象を指します。非線形 と呼ばれるのは、物質の応答の大きさが光の電界強度の2乗、3乗、あるいはさらに高次のべき乗に比例するためです。測定可能な非線形応答を得るには、一般に強い光強度が必要とされるため、多くの場合は十分な非線形効果を得るためにレーザ光が使用されます。
物質内では、光の電界強度に比例する線形応答に加えて、非線形応答も発生します。光学系と物質が非線形現象を生成するのに適した条件にない場合は、光と物質は通常の線形相互作用をします。その場合、物質内の光波は、同じビームまたは同じパルスの一部であるかどうかにかかわらず、互いに影響を与えることなく共に伝播します。
光に対する物質の線形応答の例を図1に示します。ここで、入射ビームの特性は電界強度(Ein)、周波数(ω)、偏光方向(垂直)で表されています。ビームは出射するまでに位相を積算するとともに、反射や物質による吸収などによって損失を受けますが、それ以外の点では影響を受けません。物質から出射する光の電界強度(Eout)は、入射ビームの強度に正比例します。さらに、入射光と出射光の周波数と偏光方向は同じです。
非線形プロセスは、独立した光波が物質を介して相互作用できる条件を満たしたときに発生します。物質を介した光の相互作用として、同じビームまたはパルスの光波が相互作用することもあれば、著しく異なる周波数や偏光を有する光波が相互作用することもあります。非線形現象には、新しい光周波数の発生、均一な物質内を伝播するレーザ光のレンズ効果、変調効果などがあります。新たに周波数が生成される場合は、非線形物質からの出射光に、入射ビームに含まれる如何なる周波数とも異なる周波数が含まれることになります。
図2は、光が非線形光学材料に入射し、非線形効果によって別の周波数が発生する例を示しています。入射光は図1と同じですが、この材料は第2高調波を発生することができます。結晶から出射する光には、入射ビームの2倍の周波数を有する、新しい色の光が含まれています。この2倍の周波数の光の強度は、入射光の電界強度の2乗に比例します。入射光の基本周波数を有するビームから失われたエネルギー(反射や吸収などの一般的な原因による損失は除く)は、2倍の周波数に変換された光に含まれることになります。
自発的パラメトリック下方変換(SPDC)とは?
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図3:ノンコリニアの自発的パラメトリック下方変換では、運動量保存則によりシグナル光子(ks)とアイドラ光子(ki)の運動量の和が励起(ポンプ)光子の運動量と整合する必要があり、それは互いに角度が異なることで補償されています。
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図4:自発的パラメトリック下方変換によって放出されるシグナル光子とアイドラ光子は、円錐(Type-I SPDC)または一対の円錐(Type-II SPDC)を形成します。Type-IIのSPDCにおいて、シグナル光子およびアイドラ光子の放出により形成された円錐間の2本の交線は、偏光エンタングル光子の波数ベクトル(それぞれksとkiと表示)に対応します。結晶の光学軸(OA)は結晶を回転させて変えることができ、そうすることで位相整合条件を調整できます。この図ではノンコリニアSPDCの出射光を示していますが、ガウシアンプロファイルを有するコリニアの出射光を生成することも可能です。
自発的パラメトリック下方変換
自発的パラメトリック下方変換(SPDC)は、和周波発生(SFG)の逆プロセスです。第2高調波発生(SHG)と呼ばれる縮退SFGの良く知られた例では、1064 nmの励起(ポンプ)レーザから波長532 nmの光子を発生させます。しかし、SPDCはSFGとは異なり、古典的な方法で説明することができません。SPDCのプロセスは、シグナル光の波長に対応する外部電磁場が存在しなくても光子対が生成されるため、(誘導的ではなく)自発的と呼ばれます。古典的な理論では、弱いシグナル光がすでに存在する場合にのみ、アイドラ光とシグナル光が生成されます。したがって、SPDCプロセスは量子力学でしか説明することができません。
SPDCにおけるエネルギーと運動量の保存
SPDCプロセスではエネルギーと運動量が保存されるため、下方変換される入射光子のエネルギーと運動量は、出射される光子対のエネルギーと運動量に等しくなければなりません、この保存則の意味するところは、SPDCではエネルギーと運動量が保存されるように実験パラメータを設定しなければならず、そうしなければこのプロセスは進行しないということです。 以下の例では、この保存則によって、光子の出射角度や偏光状態、非線形結晶のカット角などの実験パラメータがどのように決定されるかを示しています。
一般に、図4に示すように、アイドラ光子とシグナル光子は円錐面(Type-I SPDC)または一対の円錐面(Type-II SPDC)に沿って出射されます。これらの円錐状の出射パターンは、平面上では円環状に見えます。運動量保存則では、これらの出射光子の波数ベクトルの和は、励起光子の波数ベクトルと等しくなければなりません。
計算を簡単にするために、励起光子、シグナル光子、アイドラ光子がすべて同じ方向に伝搬するコリニアSPDCの場合を見てみましょう。この場合、エネルギー保存則も運動量保存則も単純化されて、スカラー方程式になります。
ならびに
ここで、ωは光子の角周波数、kは波数ベクトルの大きさです。p、s、iはそれぞれ励起(ポンプ)、シグナル、アイドラを示します。これら3つの光子の周波数と波数ベクトルはそれぞれ独立ではなく、次の式で関係しています。
ここで、 n(ωp)は励起(ポンプ)光の周波数ωpにおける結晶の屈折率で、cは真空中の光速度です。シグナル光子とアイドラ光子は類似した関係を有し、運動量保存則は次のように書き換えることができます。
縮退SPDC
さらに単純化された縮退SPDCの場合、シグナル光子とアイドラ光子の波長(周波数 ω)は同じであると仮定できるため、前述の式は次のように単純化されます。
ここで、(ωs,i)は縮退したシグナル光子とアイドラ光子の周波数です。エネルギー保存則によりωp = 2(ωs,i)になりますが、これは波長の短い励起(ポンプ)光子と波長の長いシグナル光子およびアイドラ光子の両方の屈折率が同じ、すなわちn(ωp) = n(ωs,i)でなければならないことを示しています。 この条件は、異なる偏光に対して異なる屈折率を有する複屈折結晶を使用することで実現できます。結晶の向きを励起光の偏光方向に対して回転させることで、エネルギーと運動量を保存しながら、自発的パラメトリック下方変換を可能にする適切な位相整合条件を実現することができます。
SPDCの分類
上記の単純なケースから一歩引いてSPDC全体を見てみると、SPDCプロセスの位相整合の種類は、3つの分類方法(波数ベクトルの方向によるコリニアvsノンコリニア、偏光方向によるType-I vsType-II、シグナル光とアイドラ光の波長による縮退vs非縮退)で整理できます。コリニアの位相整合は、単に励起光、シグナル光およびアイドラ光の波数ベクトルが平行であることを意味します。Type-IのSPDCでは、励起光の直線偏光の方向が、偏光状態が同じであるシグナル光とアイドラ光の偏光方向に対して直交しています。Type-IIのSPDCでは、シグナル光とアイドラ光の偏光方向は互いに直交しており、一方は励起光の偏光方向に対して平行になります(図4の下側参照)。 縮退SPDCでは、シグナル光とアイドラ光の波長は励起光の波長の2倍になります。 一方、非縮退SPDCでは、シグナル光とアイドラ光の波長は異なっていますが、そのエネルギーの合計は励起光のエネルギーと一致しています。 屈折率は波長に依存するため、シグナル光とアイドラ光の波長の違いによって位相整合の詳細も変化します。
SPDCの分類やチューニングに関する詳細は、以下の非線形結晶におけるSPDCプロセスの調整方法のセクションをご覧ください。
すべての結晶はSPDCに使用できるか?
非ゼロのχ(2)パラメータを有する光学材料だけしかSPDCに使用できませんが、すべての結晶がこの要件を満たしているわけではありません。SPDCに使用できる結晶の例としてはβ-BBOが挙げられます。原子、イオン、または分子の繰り返しパターンで構成されている物質は結晶と呼ばれます。結晶のパターンが対称になるための中心点がない場合(すなわち、結晶が中心対称性を有しない場合)、結晶は非ゼロのχ(2)パラメータを有し、SPDCに使用できます。
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図6:光の振動電場が物質と相互作用すると、物質内の電子にはポテンシャルエネルギーが誘起されます。物質が中心対称性を有する場合、そのポテンシャルエネルギーは電子の平衡位置からの変位(x)の関数として表され、xの偶数乗の項からなる多項式で表されます。
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図5:この立方晶構造は、AとBの2種類の異なるイオンの繰り返しパターンで構成されています。この結晶構造は、点(x, y, z)と点(-x, -y, -z)における構造が一致しているため、中心対称性を有します。
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図8:光の振動電場が非中心対称の物質と相互作用するときは、電子に誘起されるポテンシャルエネルギーを電子の平衡位置からの変位(x)の関数として表すと、大きな変位では非対称になります。この曲線は、xの偶数乗の項と奇数乗の項で構成される多項式によって表されます。
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図7:このウルツ鉱型の結晶構造は、AとBの異なる2種類のイオンの繰り返しパターンで構成されています。この結晶構造は中心対称性を有しないため、点(u, v, w)と点(-u, -v, -w)とで構造が一致しない点が少なくとも1組あります。
中心対称結晶
中心対称結晶の繰返し結晶パターンの一例を図5に示します。すべての中心対称結晶に当てはまることですが、点(x, y, z)と点(-x, -y, -z)の構造が一致しています。この結晶構造の対称性により、入射光の電場ベクトルの向きを反転させても、物質の応答は同じです。
光に対する物質の応答は、光の振動電場と物質内の電子との相互作用によって生じます。物質内の原子に束縛された電子は、その原子と光の電場、および物質内の周囲の原子から力を受けます。図6の青い曲線は、それらの力を考慮し、原子の古典力学的アプローチであるローレンツモデルを使用して計算したものです。このモデルはχ(2)パラメータの推定にも使用できます。
図6におけるX軸は電子の位置を表し、平衡状態にある電子の位置はx = 0です。入射光の振動電場は、電子を正の変位と負の変位の間で往復させます。電場の強度が大きいほど、電子の変位は大きくなります。中心の原子と周囲の原子は、変位した電子に復元力を与え、平衡状態に戻そうとします。この復元力は電子にポテンシャルエネルギーを与えます。このエネルギーはY座標の値で示され、電子が平衡状態から離れるほど増加します。
中程度の変位までは、大部分の復元力は中心原子により与えられ、それに伴う電子のポテンシャルエネルギーは対称な放物線に近い形になります(灰色の点線は放物線でフィットしたものです)。光の強度が大きくなると電子の変位も大きくなり、電子の復元力やポテンシャルエネルギーに対する周囲の原子からの寄与が大きくなります。そのような大きな変位でも、電子のポテンシャルエネルギーは放物線から逸脱しますが、対称性は維持されます。
物質の応答が対称であるのは、結晶が中心対称の構造を有するためです。SPDCを発生させるには、この曲線を非対称にする必要があります。数学的には、非ゼロのχ(2)パラメータを得るには、曲線を記述する多項式に xの奇数乗の項が含まれることが必要です。しかし、図6の曲線を記述する多項式にはxの偶数乗の項しか含まれません。
非中心対称結晶
図7に非中心対称結晶の一例を示します。このような物質の場合、位置(u, v, w)と位置(-u, -v, -w)とで結晶構造が異なる点が、常に少なくとも1組は存在します。
この場合の電子のポテンシャルエネルギーを、非中心対称物質に対して原子のローレンツモデルを適用して計算し、平衡位置からの変位の関数として示しています(図8)。入射光の強度が小さい場合、電子の平衡位置からの変位は小さく、大部分の復元力は中心原子によって与えられます。この限られた範囲内では、電子のポテンシャルエネルギーは放物線に近い対称な関数で表され、これは線形光学材料の応答に対応します。照射する光の強度を徐々に強くしていくと、電子の変位は大きくなり、復元力に対する周囲の原子からの寄与が大きくなります。このとき周囲の原子の分布は対称ではないため、そのような大きな変位に対しては、復元力もポテンシャルエネルギーの井戸も非対称になります。
この非対称曲線をモデル化した多項式には、xの偶数乗の項だけでなく奇数乗の項も含まれます。非ゼロのχ(2)パラメータは、この多項式の非ゼロの3次(x3)項から得られます。x3項は線形光学モデルに対する最低次の補正であるため、χ(2)パラメータによって定量化される2次の非線形性を生成するには、多項式に3次の項が必要です。非対称の応答は電子の変位が大きい場合にのみ顕著になるため、SPDCを誘起するには高強度の光が必要です。
一軸性結晶
非線形過程によって光を効率的に生成するための2つ目の要件は、いわゆる位相整合条件です(下のセクションで詳しく説明します)。位相整合とは、簡単に言えば、非線形プロセスにおける入射光と出射光の間で運動量を保存することです。これは、しばしば光学異方性材料の複屈折を利用することで実現されます。
一軸性結晶は特殊なタイプの異方性材料で、3つの主屈折率のうち2つが同じになります。「一軸性」という名称は、これらの結晶内に光学軸またはc軸と呼ばれる単一の伝播軸が存在することに由来しており、その軸上での屈折率はすべての偏光方向の光に対して同じになります。方解石、石英、サファイア、β-BBOなど、多くの一般的な光学材料が一軸性の結晶クラスに属します。
参考文献:
Robert W. Boyd, Nonlinear Optics (Academic Press, New York, 1992) pp. 17 - 52.
結晶の屈折率は結晶内での光の偏光方向に依存するか?
屈折率が光の偏光方向に依存する物質が存在します。例としては、β-BBOのような一軸性結晶を含む複屈折材料があります。一軸性結晶の特徴として、常光屈折率(no)と異常光屈折率(ne)と呼ばれる2つの主屈折率があります。主屈折率は、その材料が示す屈折率の最大値と最小値になります。光の電場(E)は伝搬方向(k)に対して常に垂直方向を向いているため、光の各偏光成分にとっての屈折率を決定するには、伝搬方向と偏光状態の両方を知る必要があります。
結晶の光学軸(c)方向をZ軸としたデカルト座標系を使用すると、光の偏光成分(Ex、Ey、およびEz)を複屈折結晶の幾何学と関連付けることができます。
一軸性結晶では、結晶の光学軸(c)に対する伝搬方向と偏光方向の角度を知ることで屈折率を求められます。
結晶は一軸性であるため、結晶の光学軸に対して電場が垂直方向を向いた光の屈折率はnoになります。結晶の光学軸に対して電場が平行な光の場合は、屈折率はneになります。一軸性結晶では、結晶の光学軸に対して垂直な2つの偏光成分(Ex、Ey)の屈折率は共にnoになります。結晶の光学軸に平行な偏光成分(Ez)の屈折率はneになります。
複屈折材料の屈折率がnoとneの間の値になることもありますが、それについては次のセクションで説明します。
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図9:左側の図は、入射光の伝搬方向(k)が結晶の光学軸(c)の方向を向いていることを示しています。入射光は、互いに垂直な偏光成分であるExとEyに分解できます。右側の図は屈折率楕円体であり、XY平面に断面(赤い円)が示してあります。この半径が一定の円は、屈折率が常にnoであり、結晶は光の偏光に影響を与えないことを示しています。
光学軸に対して平行に伝搬する光
(例:光学ウィンドウ)
複屈折材料の光学軸(Z軸)に沿って伝搬する光の屈折率は、常にnoになります。これは光学軸を決定づける特性です。
図9の左側の図は、結晶の光学軸に沿って伝搬する光の電場成分を示しています。この偏光状態では、成分としてExとEyの両方が含まれる可能性がありますが、Ezは含まれません。これは、電場ベクトルはZ軸に直交しており、従ってその角度φは90°であると表現することもできます。ExとEy の比は角度αに依存します。
図9の右側の図では、楕円体(いわゆる屈折率楕円体)を用いて、光の伝搬方向と偏光方向のすべての組み合わせに対して、この材料で得られる屈折率をマッピングしています。この材料の場合、最大屈折率はneで、最小屈折率はnoです。他の材料では逆の場合があります。楕円体上に描かれた赤い円は、光学軸に沿って伝搬する光にとっての屈折率を表す断面です。Ex成分とEy成分の屈折率は、共にnoになります。このため、XY平面内のEベクトルの方向に関係なく、Eの屈折率はnoになります。したがって、Ex 成分とEy成分は同じ位相速度で移動するため、光が伝搬するときにその偏光状態は変化しません。
サファイアなどの一軸性結晶で作られた光学ウィンドウ(例えば、型番WG31050)は、一般に垂直入射された光が光学軸に平行に伝搬するように切断または研磨されています。これは、上記のように、ウィンドウが透過光の偏光状態に影響を与えないようにするためです。このように端面が光学軸に対して直交している場合、その結晶はしばしばZカットやCカットと呼ばれます。
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図10:左側の図は入射光の伝搬方向(k)と偏光方向 (E)を示しており、これらは直交成分ExおよびEzに分解できます。伝搬方向はY軸に合わせてあり、結晶の光学軸(c)に対して垂直(θ = 90°)になっています。右側の図は屈折率楕円体で、XZおよびXY平面に断面(赤い楕円)が描かれています。異常光成分(Ee = Ez)の屈折率(ne)はZ軸と楕円の交点で示され、常光成分(Eo = Ex)の屈折率(no)交点で示されています。角度φから2つの成分の大きさの比が求められます。
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図11:左側の図に示す入射光の伝搬方向(k)は、結晶の光学軸(c)に直交(θ = 90°) するY軸に一致しています。φは0°であるため、偏光成分はEzだけになり、これは異常光成分でもあります。右側の図は、この成分の屈折率がneであることを示しています。
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図12:左側の図に示す入射光の伝搬方向(k)は、結晶の光学軸(c)に直交(θ = 90°)するY軸に一致しています。φは0°であるため、偏光成分はExだけになり、これは常光成分でもあります。右側の図は、この成分の屈折率がnoであることを示しています。
光学軸に対して垂直に伝搬する光
(例:波長板)
複屈折材料に入射する直線偏光が光学軸に対して直交する方向(θ = 90°)に伝搬するとき、光には光学軸(Z軸)に対して平行な偏光と垂直な偏光の両方の成分が含まれる場合があります。これを図10に示していますが、光の伝搬方向は便宜上Y軸に合わせています。光学軸に対して平行な電場成分(Ez)の屈折率はneになり、光学軸に対して垂直な成分(Ex)の屈折率はnoになります。この材料内では、これが2つの偏光成分間に生じる最大の屈折率差です。
図10の右側の図に示す垂直の赤い円は屈折率楕円体の断面で、kベクトルに対して平行な平面です。水平の赤い楕円の断面は、直交する主偏光軸との屈折率の違いを示しています。
2つの偏光成分は屈折率が異なるため、材料中を伝搬する速度が異なります。そのため、2つの偏光成分Ez とExの間に位相シフトが生じます。
多くの波長板は一軸性の複屈折材料から作られており、研磨された光学素子は垂直に入射した光が光学軸に対して直交する方向に伝搬するように取り付けられています。型番WPQ05M-266のような波長板の筐体上のマークや、光学素子の外周のフラットな面によって常光軸と異常光軸の方向を識別できます。石英結晶製の一般的な波長板の場合は、これらの軸はそれぞれファスト軸、スロー軸と呼ばれます。
偏光方向がファスト軸に平行な光は、スロー軸に平行な光よりも屈折率が小さいため、材料内での速度が相対的に早くなります。一般的な波長板の材料である石英は、常光屈折率が異常光屈折率に比べて小さい正の一軸性結晶です。そのため、石英のファスト軸は常光軸になります。
波長板を調整するときは、光学軸に対して光の伝搬方向を垂直に保持しながら、光学素子をXZ平面内でY軸を中心に回転させる必要があります。この回転ではθ = 90°を維持した状態で角度φが変化します。
角度φ が0°と90°の間にある場合、直線偏光には直交するExおよびEz の両成分が含まれ、波長板によって一方の成分は他方の成分に対して遅延します。ただしθは変化しないため、方向と方向に沿った2つの直交する主偏光方向の屈折率は変化しないことにご注意ください。
φ = 0°の場合は、図11に示すように光の偏光方向は光学軸に沿っています。このときは常光成分を含まれず、異常光成分(Ez = Ee)だけになります。この成分の屈折率はneです。偏光成分が1つだけであるため、波長板は偏光状態に影響を与えません。
直線偏光の方向をX軸(φ = 90°)に合わせた場合も、図12に示すように偏光状態は影響を受けません。この場合は、異常光成分を含まない常光成分(Ex = Eo)のみの状態になり、屈折率はnoになります。
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図13:左側の図では、入射光の伝搬方向(k)と一軸性複屈折結晶の光学軸(c)は同一平面(XZ面)内にあります。kとcの間の角度(θ)は任意に設定できます。入射光(基本波)の電場は赤いベクトルで表されており、Y軸に対して平行です。SHG光は垂直方向に偏光しており、XZ平面内に緑のベクトルで示されています。SHG光の偏光はEx成分とEz成分には分解せず、通常は屈折率n'eの異常光(E'e)として記述されます。右側の図で、n'eはθに依存し、赤い楕円で示される断面とXZ平面との交点で表されます。
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図15:実験セットアップ内でのθとγの定義。
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図14:上の図では、入射光の伝搬方向(k)と一軸性複屈折結晶の光学軸(c)は同一平面(XZ面)内にあります。kとcの間の角度(θ)は任意に設定できます。ここでは、入射光(基本波)の電場(E)(赤いベクトル)が実験室の参照フレームから角度γだけ回転しています。そのため、基本波の電場の一部(Eoγ)だけがSHGによって偏光E'eに変換されます(緑色のベクトル)。
任意の角度で伝搬する光
(例: 非線形結晶)
ここでは、非線形光学における複屈折結晶の応用例として、Type-Iの第2高調波発生(SHG)に関するケーススタディを行います。SHGは縮退SPDCの逆のケースであるため、ここでの取り扱い方を知ることは有益です。
一軸性結晶を用いたType I の第2高調波発生(SHG)では、偏光方向を図13のように設定します。kベクトルは光学軸から角度θに設定し、かつXZ平面内に置きます。入射光(基本波)の電場(Eo)は常光軸(この場合はY軸)に平行であり、屈折率はnoになります。常光軸方向軸に対して平行)に偏光した光の屈折率は、θの変化の影響は受けません。
SHG光はXZ平面に偏光しており、Eoおよびkベクトルの両方に対して直交します。SHG光の偏光はEx成分とEz成分には分解せず、通常は異常光(E'e)として記述されます。この異常光の屈折率n'eはθ関数であり、 n'e(θ)は図13の式を用いて計算できます。異常光の屈折率をθの関数として決定する楕円は、屈折率楕円体の断面で与えられます。2つの極端なケースとしては、1)電場が常光軸 の方向を向いて屈折率がnoとなるθ = 0°の場合と、2)電場が異常光軸 の方向を向いて屈折率がneとなるθ = 90°の場合があります。(')の表記は、θがこの2つの極端なケースの間にあるときの屈折率であることを示します。
図14はType I SHGの理想的な偏光条件からずれている場合を示しています。ここでは、入射光(基本波)は直線偏光ですが、常光軸から角度γだけ回転しています。このとき、Type I SHGのプロセスに寄与している基本波の電場は、入射光の電場のEoγ成分です。γ = 90°,ではSHGに寄与する電場はEoγ = 0となるため、SHG出力はゼロになります。
実際問題として、実験室の参照フレームで設定された光の偏光状態が結晶系固有の主軸と整合しない場合、γはゼロにはなりません。従って、例えば光学テーブル上のレーザの偏光を結晶のに平行にするなど、2つのフレームを整合させる必要があります。そのために、非線形結晶を回転ステージに取り付け、まず筐体のマークを用いて目視でγをゼロに調整します。次に、必要に応じて、SHG出力光のパワーをフィードバック用に使用します。図15は実験フレーム内で結晶を回転する場合のγの方向を示しています。この例では、非線形結晶は回転ステージRP01(/M)の上に取り付けられた回転マウントRSP1(/M)に保持されています。γとθを変更することで、光学軸の方向を調整します。この場合、γの調整は、光学軸を水平面に合わせ、かつ常光軸の1つを垂直にアライメントするのに使用されます。垂直に偏光した入射ビームの場合、この向きで回転ステージを用いてθを調整できます。
非線形結晶におけるSPDCプロセスの調整方法
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図15:ノンコリニアの自発的パラメトリック下方変換によって放出されるシグナル光子とアイドラ光子は、円錐(Type-I SPDC)または一対の円錐(Type-II SPDC)を形成します。Type-IIのSPDCにおいて、シグナル光子およびアイドラ光子の放出により形成された円錐間の2本の交線は、偏光エンタングル光子の波数ベクトル(それぞれksとkiと表示)に対応します。 このType-II SPDCの図ではノンコリニアSPDCの出射光を示していますが、ガウシアンプロファイルを有するコリニアの出射光を生成することも可能です。
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図16:SPDCでは、励起光子、シグナル光子、アイドラ光子の波長はそれぞれ異なっていても、屈折率は等しいことが求められます。β-BBOのような複屈折材料は2つの結晶軸で異なる屈折率を有するため、それを利用して偏光状態と波長の異なる光子の位相を整合させることができます。
縮退したType-IノンコリニアSPDCの調整
ここでは、励起(ポンプ)波長405 nmのノンコリニア位相整合による縮退した自発的パラメトリック下方変換(SPDC)を例にして、その調整方法をご紹介します。同じロジックを用いて、どのような励起波長についても、縮退および非縮退SPDCの調整を行うことができます。この例では、縮退したシグナル光とアイドラ光の偏光方向は同じであり、共に励起光の偏光方向に対して垂直です。このような変換はType-I SPDCと呼ばれます(図15の上側参照)。これに対し、Type-IIのSPDCでは、シグナル光とアイドラ光の偏光方向は互いに垂直で、その一方は励起光の偏光方向に対して平行になります(図15の下側参照)。
前述のように、SPDCを実現するには、405 nmの励起光の非線形結晶内での屈折率が、810 nmのシグナル光とアイドラ光の両方の屈折率と等しくなければなりません。β-BBOの屈折率の波長依存性を図16に示します。赤い実線は常光の屈折率(no)を表しています。黒い破線は、結晶面に対して垂直に入射した異常光の屈折率(ne)を表しています。入射する励起光の波数ベクトルに対して結晶軸を回転させることで、屈折率曲線をne (405 nm、励起光) = no (810 nm、 シグナル光/アイドラ光)になるまで移動させることができます。これは位相整合と呼ばれ、この条件を満たすことで405 nmの励起光子からシグナル光およびアイドラ光の光子対への効率的なSPDCを実現できます。この例では、位相整合を最適化するには、405 nmの励起光の入射方向に対して、結晶の光学軸の角度を29.2°に設定しなければなりません。通常は、それに近い角度にカットされた結晶(この例には当社の結晶NLCQ1、NLCQ2、NLCQ3などが該当)を使用することで、ほぼ垂直入射することができ、また有効径も最大化できます。
当社のβ-BBO結晶は、特定の波長の光を垂直入射すると、ほぼ位相整合条件を満たすように設計されています。これらのβ-BBO結晶の面は、垂直入射する光と光学軸との角度が、特定の光周波数に対してほぼ位相整合角となるようにカットされています。現在ご提供可能な結晶の詳細な仕様については、「仕様」タブをご覧ください。位相整合角に正確に合わせるときは、結晶を回転させて光学軸(OA)と励起光の入射方向との角度を調整します(図15参照)。通常、数度以下の調整で、セットアップ内の結晶の性能を最適化したり、結晶の動作範囲内の別の波長に整合させたりすることができます。
Type-IおよびType-IIの間でのSPDCの調整
位相整合のパラメータに応じて、シグナル光子とアイドラ光子のペアは、結晶から励起光と同じモードでコリニアに出射するか、または開口角の小さな円錐面に沿ってノンコリニアに出射します。円錐の角度とシグナル光とアイドラ光の波長は、結晶への入射角を変えることで調整できます。
Type-I SPDCの場合(図15の上側の図を参照)、上述の例では、縮退したノンコリニアのシグナル光子とアイドラ光子は半角2.88°の単一の円錐面に沿って放出されます。結晶の光学軸を回転して角度を28.64°にすると、縮退した位相整合条件がノンコリニアからコリニアに変化し、円錐面に沿った出射パターンではなく、励起光とコリニアなガウシアン空間モードになります。
Type-IとType-IIのSPDCでは角度が大きく異なるため、しばしばカット角の異なる結晶を使用する必要があります。例えば、当社のβ-BBO結晶NLCQ1は29.2°の角度でカットされており、励起波長405 nmの光をほぼ垂直に入射すればType-Iの位相整合ができ、縮退した810 nmの出射光が得られます。同じ波長でのType-II SPDCについては、41.8°の角度でカットされた当社のBBO結晶NLCQ4に対して、ほぼ垂直に入射すれば位相整合できます。
Type-II SPDCでは(図15の下側の図を参照)、シグナル光子とアイドラ光子はそれぞれ半角5°の別個の円錐面に沿ってノンコリニアに放出されます。シグナル光子とアイドラ光子の放出によって形成される円錐は分離され、それらは互いに1.7°(半角)離れています。このとき、2つの円錐は2本の線で交差します。負の角度オフセットがより大きい場合(励起光の伝搬方向に対する光学軸の角度がより大きい場合)、個々の円錐の半角は大きくなりますが、2つの円錐を分離する角度はそれほど大きく変化しません。円錐の半角が大きくなることで、2つの円錐の交線は外側(横方向)に移動します。入射角をコリニアに向けて調整していくと、2つのノンコリニアの出射光の円錐は徐々に分離し、その後円錐は消失してコリニアのガウシアンモードに戻ります。
励起光の波長が405 nmのときに、シグナル光とアイドラ光の波長が必ずしも正確に810 nmになるとは限らないことに留意することは重要です。812 nmと808 nmのように、光子対の波長が異なる場合もあります。そのような場合、波長の長い(エネルギーが低い)方の光子の出射方向と励起光の伝搬方向の角度はわずかに大きくなり、波長の短い方の光子では逆になります。このような波長の偏差は、それらの異なる波長で位相整合がどれだけ満たされているかによって制限されます。それは位相整合が最適でない場合、SPDCプロセスの効率が急激に低下するためです。
これらの結晶に対する様々な位相整合条件により、広い波長範囲と角度で光子対を生成することができます。これは、SPDCによって生成される光子は、条件によって広い空間領域に分散できることを意味します。従って、2つのディテクタで同時計数をする場合、同じシグナル光およびアイドラ光のペアの光子を検出するには、ディテクタを正しい位置に配置するように注意する必要があります。
結晶の厚さがSPDCに与える影響C
位相整合は様々な波長や結晶、およびその配置の仕方によって実現できますが、必要とする出力光を得るためにシステムを最適化するには、さらに多くの変数を考慮する必要があります。その一つが結晶の厚さです。結晶が厚いと、光が結晶と相互作用する経路が長くなるため、与えられた励起光パワーに対してより高い光子対生成率が得られます。しかし、厚さが増すと、SPDC光子の波長と位置の相関が不鮮明になります。これは結晶内の異なる場所で生成された光子対では、それらの放出に伴って形成される円錐の原点が異なるためです。複屈折材料β-BBOによるType-II SPDCでは、常光軸と異常光軸での屈折率の違いによって群速度が異なるため、互いに垂直方向に偏光したシグナル光子とアイドラ光子の間に時間的なウォークオフが生じます。この効果によりシグナル光子とアイドラ光子がラベル付けされ、エンタングルメントの質が低下します。この時間的ウォークオフは伝搬効果であるため、結晶の厚さが増すにつれて直線的に増加します。
図17に示すように、厚い結晶では与えられた位相条件に対する励起光の帯域幅も狭くなります。その結果、厚い結晶では、放出されるシグナル光子とアイドラ光子の角度帯域幅も狭くなります(図18参照)。この狭くなった角度分布により波長と位置の相関が低減し、特定の光子対を分離することが困難になる場合があります。これは、実際の実験では一般にアイリスを使って出力されるシグナル光とアイドラ光を空間的にフィルタリングし、それによって限定された波長範囲の光を通過させるためです。
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図17:結晶の厚さが増すと、位相整合が可能な励起光の帯域幅が狭くなります。この図では、出力光の波長を固定し、それに対して位相整合の可能な励起光波長を計算してプロットしています。この理論データは、ウェブツールのSPDCalcを用いて計算しました。
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図18:放出されるシグナル光子およびアイドラ光子の出射角度の広がりは、結晶の厚さが増すにつれて狭くなります。この理論データは、ウェブツールのSPDCalcを用いて計算しました。
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Key Specifications for SPDC Applicationsa | ||||
---|---|---|---|---|
Item # | NLCQ1 | NLCQ2 | NLCQ3 | |
Crystal Thickness | 1.00 mm | 2.00 mm | 3.00 mm | |
Angle of Optic Axis (θ)b | 29.2° ± 0.5° | |||
Application | Type-I SPDC | |||
AR Coating (AOI = 0°) | R< 0.5% at 405 and 810 nm | |||
AR Coating Curves | Raw Data | |||
Pump Wavelength (2ω) | AOI = 0° | 405 nm | ||
SPDC Signal / Idler Wavelength (1ω) | AOI = 0° | 810 nm / 810 nm |
- 405 nm、810 nmのARコーティングの施されたマウント付き結晶
- 光学軸の角度:29.2°
- 励起光を垂直入射したときの位相整合波長が、励起光波長405 nm、シグナル光・アイドラ光波長810 nmとなるように結晶をカット
このβ-BBO結晶は、タイプI 位相整合で中心波長405 nmの入射ビームから810 nmのSPDC光が得られるように設計されています。厚さは1.00、2.00、および3.00 mmの結晶をご用意しています。結晶には励起光、シグナル光およびアイドラ光の全波長域で表面反射を低減するARコーティングが施されています。これらのマウント付き結晶は、ナノ秒レーザ(型番NPL41Bなど)、Ti:サファイアレーザの2倍波、または405 nm半導体レーザ(型番L405P20など)で励起できます。
Key Specifications for SPDC Applicationsa | ||||
---|---|---|---|---|
Item # | NLCQ4 | NLCQ5 | NLCQ6 | |
Crystal Thickness | 1.00 mm | 2.00 mm | 3.00 mm | |
Angle of Optic Axis (θ)b | 41.8° ± 0.5° | |||
Application | Type-II SPDC | |||
AR Coating (AOI = 0°) | R< 0.5% at 405 and 810 nm | |||
AR Coating Curves | Raw Data | |||
Pump Wavelength (2ω) | AOI = 0° | 405 nm | ||
SPDC Signal / Idler Wavelength (1ω) | AOI = 0° | 810 nm / 810 nm |
- 405 nm、810 nmのARコーティングの施されたマウント付き結晶
- 光学軸の角度:41.8°
- 励起光を垂直入射したときの位相整合波長が、励起光波長405 nm、シグナル光・アイドラ光波長810 nmとなるように結晶をカット
このβ-BBO結晶は、タイプII 位相整合で中心波長405 nmの入射ビームから810 nmのSPDC光が得られるように設計されています。厚さは1.00、2.00、および3.00 mmの結晶をご用意しています。結晶には励起光、シグナル光およびアイドラ光の全波長域で表面反射を低減するARコーティングが施されています。これらのマウント付き結晶は、ナノ秒レーザ(型番NPL41Bなど)、Ti:サファイアレーザの2倍波、または405 nm半導体レーザ(型番L405P20など)で励起できます。
Key Specifications for SPDC Applicationsa | ||||
---|---|---|---|---|
Item # | NLCQ7 | |||
Crystal Thickness | 3.00 mm | |||
Angle of Optic Axis (θ)b | 26.9° ± 0.5° | |||
Application | Type-I SPDC | |||
AR Coating (AOI = 0°) | R< 0.5% at 405 nm R< 3% at 586 and 1310 nm | |||
AR Coating Curves | Raw Data | |||
Pump Wavelength (2ω) | AOI = 0° | 405 nm | ||
SPDC Signal / Idler Wavelength (1ω) | AOI = 0° | 586 nm / 1310 nm |
- 405 nm、586 nm、1310 nmのARコーティングが施されたマウント付き結晶
- 光学軸の角度:26.9°
- 励起光を垂直入射したときの位相整合波長が、励起光波長405 nm、シグナル光波長586 nm、アイドラ光波長1310 nmとなるように結晶をカット
このβ-BBO結晶は、タイプI 位相整合で中心波長405 nmの入射ビームから586 nmと1310 nmの SPDC光が得られるように設計されています。厚さは3.00 mmの結晶をご用意しています。結晶には励起光、シグナル光およびアイドラ光の全波長域で表面反射を低減するARコーティングが施されています。これらのマウント付き結晶は、ナノ秒レーザ(型番NPL41Bなど)、Ti:サファイアレーザの2倍波、または405 nm半導体レーザ(型番L405P20など)で励起できます。
Key Specifications for SPDC Applicationsa | ||||
---|---|---|---|---|
Item # | NLCQ8 | |||
Crystal Thickness | 3.00 mm | |||
Angle of Optic Axis (θ)b | 22.2° ± 0.5° | |||
Application | Type-I SPDC | |||
AR Coating (AOI = 0°) | R< 1% at 532 nm R< 2.5% at 810 and 1550 nm | |||
AR Coating Curves | Raw Data | |||
Pump Wavelength (2ω) | AOI = 0° | 532 nm | ||
SPDC Signal / Idler Wavelength (1ω) | AOI = 0° | 810 nm / 1550 nm |
- 532 nm、810 nm、1550 nmのARコーティングが施されたマウント付き結晶
- 光学軸の角度:22.2°
- 励起光を垂直入射したときの位相整合波長が、励起光波長532 nm、シグナル光波長810 nm、アイドラ光波長1550 nmとなるように結晶をカット
このβ-BBO結晶は、タイプI位相整合で中心波長532 nmの入射ビームから810 nmと1550 nmのSPDC光が得られるように設計されています。厚さは3.00 mmで、励起光、シグナル光、アイドラ光の全波長域で表面反射を低減するARコーティングが施されています。このマウント付き結晶は、Nd:YAGレーザの2倍波(532 nm)や、半導体レーザ(型番DJ532-40など)で励起できます。
Key Specifications for SPDC Applicationsa | ||||
---|---|---|---|---|
Item # | NLC07 | |||
Crystal Thickness | 3.00 mm | |||
Angle of Optic Axis (θ)b | 19.8° ± 0.5° | |||
Application | Type-I SPDC | |||
AR Coating (AOI = 0°) | Ravg< 4%, 650 - 850 nm and 1300-1700 nm | |||
AR Coating Curves | Raw Data | |||
Pump Wavelength (2ω) | AOI = 0° | 775 nm | ||
SPDC Signal / Idler Wavelength (1ω) | AOI = 0° | 1550 nm / 1550 nm |
- 775 nm、1550 nmのARコーティングの施されたマウント付き結晶
- 光学軸の角度:19.8°
- 励起光を垂直入射したときの位相整合波長が、励起光波長775 nm、シグナル光・アイドラ光波長1550 nmとなるように結晶をカット
このβ-BBO結晶は通常第2高調波発生(SHG)用として使用されていますが、その逆過程を利用して、中心波長775 nmの入射ビームから1550 nm のタイプI SPDC光を生成することも可能です。厚さは3.00 mmで、励起光、シグナル光、アイドラ光の全波長域で表面反射を低減するARコーティングが施されています。このマウント付き結晶はTi:サファイアレーザ、1550 nmレーザ(型番FSL1550など)の2倍波、または半導体レーザ(型番DBR780PNなど)で励起できます。この結晶は第2高調波発生用BBO結晶のページでもご覧いただけます。