光スペクトラムアナライザのチュートリアル
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設計
このタブでは、当社のフーリエ変換光スペクトラムアナライザ(OSA)の設計の主な概念と使用例について説明しています。
目次
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図2: Redstone OSAの光学系の配置図。なお、OSA302の干渉計には分散補償板が内蔵されていませんのでご留意ください。
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図1: 2個のレトロリフレクタを用いたOSA20xCの光学系の配置図
干渉計の設計
当社のフーリエ変換光スペクトラムアナライザ(FT-OSA) OSA20xCでは、図1にあるように2個のレトロリフレクタを使用しています。これらのレトロリフレクタは、ボイスコイル駆動の移動台に搭載されており、光路を反対方向に変化させます。また、この移動により干渉計の2つの光路長を同時に変えることができます。この配置の利点は、移動台の物理的移動量に対し、干渉計の光路差(OPD)を4倍にできることです。光路差(OPD)を大きくすればするほど、FT-OSAが分解できるスペクトルは微細になります。
Redstone® OSA30x には、固定型と可動型のレトロリフレクタがそれぞれ1つずつ標準搭載されています(図2参照)。可動型のレトロリフレクタは当社の特許取得済みボイスコイル駆動の移動台*に載せてあり、ブランチの光路長を変えることができます。固定型のレトロリフレクタはピエゾアクチュエータに取り付けられており、ピエゾアクチュエータの自己整合アルゴリズムで光路に直交して2次元移動することができます。この構成では、2つのブランチ間の光路差(OPD)を移動台の物理的移動量の2倍にすることができます。
*Redstone OSA30xは当社が特許出願中のボイスコイル駆動プラットフォームで構成されています。
入力光は、コリメートされたのちにビームスプリッタで2つの光路に分割されます。2つの光路の光路差は、OSA20xCで±40 mmまで、Redstoneでは160 mmまで変えることができます。分割されたコリメート光がビームスプリッタで再び重なると、2つの光ビームは干渉します。
図1と図2のディテクタが、インターフェログラム(干渉図形)とよばれる干渉パターンを記録します。このインターフェログラムは、入力光スペクトルの自己相関波形なので、その波形をフーリエ変換することで光のスペクトルが再生できます。Redstone OSAは、光路差ゼロ(ZPD)地点における非対称のsingle-sidedインターフェログラムを収集します。これに対してOSA20xCは両側(double-sided)インターフェログラムを収集します。このようにして得られたスペクトルは、高い分解能と広い波長帯域を両立します。波長範囲は、ディテクタの帯域とコーティングでも制限されます。OSA20xCモデルに内蔵された周波数安定化HeNeレーザ(632.9918 nm)と、Redstone OAS30xに内蔵された周波数基準赤外域(IR)光源(1532.8323 nm)が光路長変化を正確に測定し、システムを連続的に校正することでシステムの正確度を保証します。これにより、回折格子型の光スペクトラムアナライザよりも精度の高いスペクトル分析ができます。
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図3: OSAの分解能と入射光の波長
こちらの分解能は左で説明した数式を用いて計算されました。 この式はすべてのOSAで有効ですが、各モデルで使用可能な波長範囲はディテクタの帯域幅と光学素子のコーティングによって異なります。なお、OSA20xCの場合、低分解能モードではΔk =1 cm-1、高分解能モードではΔk = 0.25 cm-1の値を使用しており、Redstone OSA30xの場合、Δkは低分解能モードでは4.0、中低分解能では1.0、中高分解能では0.25、高分解能モードでは0.063 cm-1の値を使用しています。分解能は、機器の指定の波長範囲に対してのみ有効ですのでご注意ください。
OSA20xCのスペクトル分解能は7.5 GHz (0.25 cm-1)、Redstone OSAのスペクトル分解能は1.9 GHz (0.063 cm-1)となっています。波長を単位とした分解能は被測定光の波長に依存します。詳細については下記の「分解能と感度」をご参照ください。ここでは、スペクトル分解能は、レイリ基準により規定され、2つのスペクトルを分解(別のスペクトルであると認識)するために必要な、最小の波長間隔のことを指します。波長計モードでの分解能はスペクトル測定モードと比較してかなり良好な数値が出ますが、ここで説明しているスペクトル分解能の数値とは別のものです。
中赤外域(MIR)のスペクトルにおけるデバイス内の水分吸収による影響を低減させるため、当社のOSAの背面パネルには、乾燥した空気(または窒素)と入れ替えるパージ用の内径6.35 mm(1/4インチ)のホース接続部が2つ付いています。この用途に適した製品として、当社ではドライエアサーキュレーターユニットをご用意しており、そのホースを直接コネクタに接続することができます。
分解能と感度
このタイプの分光装置の分解能は、干渉計内部の2つの光路差(OPD)に依存します。この分解能をわかりやすく説明するには、波長(ナノメータ)や周波数(テラヘルツ)ではなく、波数(センチメートルの逆数)を用いる方が有効です。
中心周波数が非常に近い2つの光源(レーザ)を使用していると仮定し、エネルギー差が1 cm-1であるとし、6500 cm-1と6501 cm-1であるとします。インターフェログラムで、この2つの信号を区別するには、光路差ゼロ(ZPD)の点から1 cm離れる必要があります。OSA20xCは、光路差で±4 cm移動でき、0.25 cm-1しか離れていない信号のスペクトル特性を識別できますが、Redstone OSA30xでは、光路差で16 cm移動でき、わずか0.063 cm-1しか離れていない信号のスペクトル特性も識別できます。この装置の分解能は下記の数式で計算できます。
ここではΔλがpmを単位とした分解能であるとき、Δkがcm-1を単位とした分解能で、λを単位とした波長です。この式を用いて計算された、pmを単位とした分解能の波長特性は図3をご参照ください。
OSA20xCの分解能は、ソフトウェアのメインウィンドウ内で高低のいずれにも設定できます。高分解能モードのとき、レトロリフレクタは最大で±1 cm(OPDでは±4 cmに相当)移動し、低分解能モードのとき、レトロリフレクタの移動量は±0.25 cm(OPDでは±1 cmに相当)となります。Redstone OSA30xでは、高(OPDでは16 cmに相当)、中高(OPDでは4 cmに相当)、中低(OPDでは1 cmに相当)、低(OPDでは2.5 mmに相当)の4種類の分解能モードの設定が可能です。 OSAソフトウェアを用いて、スペクトルの計算で使用されるインターフェログラムの長さを短くすることで、高周波数成分からスペクトルの影響を取り除くことができます。
装置の感度は、センサの電子的な利得に依存します。利得が増大することで、ディテクタの帯域幅が狭くなるので、この装置は高い利得で設定されているときに、ゆっくり動作することになります。下図が示すように、雑音レベルは波長とOSAのモデルの種類に依存します。
絶対パワー値とパワー密度
スペクトルの表示では、縦軸に絶対パワー値をとるモード(図4参照)またはパワー密度をとる表示モード(図5参照)が選べます。この両モードの表示は、リニアスケールまたはログスケールで表示できます。絶対パワー値を表示するモードで表示されるトータルパワーは、特定の波長における装置の実際の分解能を基に決まっています。この表示は入射光が狭帯域の場合にのみお使いになることをお勧めします。広帯域のデバイスに対しては、パワー密度モードでの表示を推奨しています。この表示モードの時には、単位波長あたりのパワーを縦軸に表示します。この場合、その単位波長は固定波長帯に基づいて決まっており、装置の分解能設定には依存しません。
インターフェログラムデータの取得
OSA20xCモデルの場合、被測定光の光路長の変化を等間隔で刻むために、基準レーザの干渉パターンを16ビットA/D変換器のクロック信号として使います。HeNe基準レーザの干渉縞間隔はデジタル化されます。干渉縞の繰返し周期に位相ロックループ(PLL)を乗じることで、極めて細かなサンプリング分解能が得られます。多重PLLフィルタによって、周波数を16、32、64、128倍にできます。128倍でのサンプリングでは、約1 nmの間隔でデータが得られます。多重PLLフィルタにより、取得時間とリフレッシュ速度に対して分解能と感度のシステムパラメータのバランスを取ることが可能になります。
これに対してRedstone OSA30xは、18ビットADCを使用して最大1 MHzの固定周波数でインターフェログラムをサンプリングし、レトロリフレクタの移動台はPIDループによって制御される一定速度で移動します。最大の感度設定では、約1 nmの移動ごとに1つのデータポイントが収集されます。収集されたデータは、基準レーザの周期ごとに最大128のデータポイントに適合するようにリサンプリングされます。
この精密サンプリングは、光が弱い広帯域光の時に非常に便利です。このような理由でZPDにおけるインターフェログラムの短い区間に全てのスペクトル情報が含まれることになります。これは通常、センターバーストとよばれています。
Hi-Speed USBリンクを利用して、インターフェログラムを最新のマルチコアプロセッサと高性能CPUの利点を活かして作成されたOSAソフトウェアに転送します。そしてこのソフトウェアにより、高速フーリエ変換(FFT)の出力において可能な限り高い分解能、高S/N比(SNR)が得られるように、入力波形の分析と条件出しのための各種の計算が行われます。
OSA20xCで使用されているディテクタ増幅器は、自動利得制御機能を有し、低雑音・低歪でダイナミックレンジが広いため、AD変換器を適切な状態で使うことができます。S/N比は10 mWの入力パワーまで十分に良好です。低パワーの入射信号に関しては、通常は狭帯域光源からの100 pW未満の信号が検出可能です。当社のOSA20xCは、干渉計に入る全ての光を利用することに加え、差分検出方式でコモンモード雑音を排除するため、S/N比を高めることができます。
Redstone OSAディテクターモジュールには高利得帯域幅積(GBP)増幅器が内蔵されており、高帯域幅18ビットADCを駆動する大電流低ノイズのバッファと組み合わせて、ディテクタのダイナミックレンジを大きくしています。自動増幅調整機能により、使用するADCビット数(充填率)が最適化されます。切り替え可能な光減衰器により、飽和しやすい赤外域用ディテクタと組み合わせて使用しても幅広い入力パワーが可能になります。差動増幅器と、効果的なスクリーニングおよびフィルタリング技術を備えた差分検出アーキテクチャにより、スプリアスのない高いダイナミックレンジで優れた信号強度が保証されます。
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図 6: 典型的なインターフェログラム
インターフェログラムデータの処理
生成されたインターフェログラムデータ(図6参照)の点数は、感度や解像度の設定によりますが、5万点から1600万点です。FT-OSAのソフトウェアは、入力データを解析して、ソフトウェアライブラリから適切なFFTアルゴリズムを選択します。
スペクトル情報構築に必要な多数のプロセスの中の、インターフェログラムデータの取り込みや処理に対する、非同期やマルチスレッドの手法を利用して、ソフトウェアのさらなる機能が実現されます。ソフトウェアのマルチスレッド構造により、PCの能力に応じて複数の処理を並列に行うことが可能で、プロセッサの帯域を最大限に活かすことができます。当社のFT-OSA装置には、データ処理能力とユーザーインターフェイスを考慮して選択されたノート型PCが付属します。
波長計モード
狭帯域の光信号の解析では、FT-OSAが被測定光の中心波長を自動的に計算し、その中心波長はスペクトル分布を示すメインディスプレイウィンドウの直ぐ下に表示されます。中心波長λは、被測定光および基準レーザの干渉縞数(インターフェログラムの周期)を数えて得られた数値を使って次の式で求めます:
この数式において、mref が基準レーザの干渉縞の数、mmeasが入射レーザの干渉縞の数、nrefが基準レーザの波長(632.9918 nmまたは1532.8323 nm)における空気中の屈折率、λref,vacが基準レーザの真空中の波長です。nmeasは波長λmeas,vacにおける空気中の屈折率で、これはEdlénの公式(OSAソフトウェア バージョン2.90以下)またはCiddorの公式(OSAソフトウェア バージョン3.0以上)の修正版を使用してλmeas,air(空気中の測定波長)から求められます。
FT-OSAを波長計として用いる場合、干渉縞を細かく分解できるので、FT-OSAを広帯域分光計として用いる場合よりも分解能はかなり高くなります(インターフェログラムデータの取得の説明をご参照ください)。実際にはシステムの分解能は、被測定光の帯域幅と成分、ディテクタの雑音、基準レーザの波長のドリフト、干渉計のアライメントおよびその他のシステムの誤差で決まります。波長計モードでは、このシステムは可視域のスペクトルで±0.1 pm、そしてNIR/IR域のスペクトルで±0.2 pmと信頼性の高い結果を達成しています(詳細についてはOSA製品ページの「仕様」タブ内をご参照ください)。
適切な表示分解能を決めるために、ソフトウェアは被測定光のスペクトルを評価します。ピークが複数あるために測定結果が信頼できないような場合には、ソフトウェアは波長計モードを無効にして、間違った結果の出力を防止します。
波長の校正と精度
OSA20xCには、真空に対する波長が632.9918 nmの安定化HeNe基準レーザを内蔵しています。HeNeレーザの安定化技術は確立されたもので、安定化HeNeを使うことで、長期に渡って安定した波長確度を実現することができます。Redstone OSA30xには、真空に対する波長が1532.8323 nmの周波数基準光源を内蔵しています。周波数がロックされることで、長期間にわたる波長精度が保証されます。また、基準レーザをFC/APC出力部に接続することもできます。
FT-OSAは、干渉計を走査するときの基準光と被測定光の光路が同じになるように、工場で調整されます。残るアライメント誤差の影響は0.5 ppm未満となり、入射光の位置確度は、高精度のセラミックレセプタクルおよび頑丈な干渉計キャビティ設計によって確かなものとなります。走査型干渉計の中には、光ファイバは使用していません。Eldénの公式(OSAソフトウェア バージョン2.90以下)またはCiddorの公式(OSAソフトウェア バージョン3.0以上)を使って、内蔵のセンサが取得した温度と圧力のデータから、基準レーザの空気中での波長が測定ごとに計算されます。
Optical Rejection Ratio | ||
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Distance from 1532 nm Peak | OSA205C | OSA305 |
0.2 nm (25 GHz) | 30 dB | 40 dB |
0.8 nm (100 GHz) | 37 dB | 42 dB |
6.2 nm (800 GHz) | 44 dB | 45 dB |
7.8 nm (1000 GHz) | 44 dB | 45 dB |
光除去比(ORR)
ピーク近くの低レベル信号を測定する能力は、装置の光除去比(ORR)に依存します。これはOSAのフィルタ応答性と考えることができ、ピークからの任意の距離でのパワーに対するピークでのパワーの比であると定義できます。
ORRが測定対象の光源の信号対雑音比(S/N比)よりも低い場合、測定値は被測定光源ではなくOSAの限界を示すことになります。右表はその例です。
ソフトウェアのチュートリアルビデオ
OSAソフトウェアについて理解を深めていただけるよう、ソフトウェアの基本的な機能と一般的な測定に適した設定をご紹介する短いビデオをいくつかご用意しました。動画内で使用されているOSAモデルは取扱い終了となっていますが、動作の原理は現在のモデルも同様です。
OSAソフトウェアの基本機能主な内容
動画時間: 4:41 |
適切な設定を選ぶヒント主な内容
動画時間: 3:54 |
狭帯域光源の測定主な内容
動画時間: 3:13 |
光入力パワーの測定主な内容
動画時間: 1:24 |
フィルタ測定の実施主な内容
動画時間: 2:38 |
OSA20xCおよびRedstone®を用いたパルス光源の解析
概要および解析結果のまとめ
光スペクトラムアナライザ(OSA)はCW信号を解析するよう設計されておりますが、ある状況ではパルススペクトルも測定することもできます。には、正確なパルススペクトルの測定結果を得るためには、解決しなくてはならないいくつかの課題があります。例えば、光源のパルスとしての性質による「スペクトルゴースト」の発生やOSAの光路差(OPD)の変化への対応です。また、パルス光源のノイズフロアはCW光源のノイズフロアよりもかなり高くなります。OSAを用いたパルス光源の測定方法の1つに、異なる感度レベルでの連続計測があります。各波長における複数のトレースの最小測定点を用いて1つのスペクトルを生成することで、スペクトルゴーストを抑制することができます。この方法はOSAソフトウェア内に組み込まれており、「Sweep」または「Instrument」メニューから「Pulsed」を選択して実行します。この方法の仕組みの説明と、そのために有用ないくつかのパルス光源の話とを以下のチュートリアルでいたします。
その説明の要点は、30 kHz(OSA20xC)または6 kHz(OSA30x)を超えるパルスレートでは、繰返し周波数がディテクタの帯域幅より大きくなるため、標準測定モードを利用することができるということです。そして、低い繰返し周波数を有する広帯域信号では、インターフェログラムの「ゼロバースト」がパルスの1つと一致させるようご注意ください。パルス信号を観測するとき自動利得(Automatic Gain)が正常に作動しない場合は、ディテクタを飽和させずにかつ強い信号となるように、インターフェログラムをモニタし、手動で利得およびオフセットの設定を行う必要があります。当社のOSA装置にパルス光源を使用する方法の詳細については、当社までお問い合わせください。
パルス光源がインターフェログラムおよびスペクトルに与える影響
インターフェログラムの測定中、光路差(OPD)は変化し続けるため、パルス光源は実効的にインターフェログラムを変調します。100%の変調を行った際(例えばオン・オフ式パルセーション)のインターフェログラムでは、情報を持たない繰返し領域(スロット)が生じます。これらのスロットはディテクタが光を測定しないOPDに対応するものと解釈されます。ここで得られるインターフェログラムは、パルス信号でマスクされた真のインターフェログラムになります。図1は、測定されたインターフェログラムと、それぞれに対応したCWおよびパルス光源のスペクトルを示しています。CWとパルス光源のスペクトルは同じであるはずですが(パルス駆動によるLDチップ温度の低下などによるピーク形状および位置の若干の違いは考慮に入れないこととします)、周波数軸に余分にあらわれてくる擬似的スペクトルは、パルス光のインターフェログラムが変調されることにより、想定されているピークのそばに、対称軸な位置に出現します。この「スペクトルゴースト」は、光源のスペクトル的な挙動よりも時間的な挙動が原因となっているのです。光源の真のスペクトルを測定するためには、スペクトルゴーストを十分に少なくするか、測定対象となる周波数または波長の範囲外においやることが重要です。
図1:CW(上)および20 kHzパルス光(下)の狭帯域光源によるインターフェログラムおよびそれぞれに対応するスペクトルの測定結果(OSA20xC使用)。
インターフェログラムの矩形波変調が、右下の図のスペクトルゴーストを発生させています。
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図2: 100 Hz~100 kHzまでの55種類のパルス繰返し周波数の1550 nm DFB半導体レーザのスペクトルを重ねてまとめて表示(OSA20xC使用)。強度はログスケールでマッピングされています。OSAの設定: 高分解能、高感度、アポダイゼーション無し、平均回数5回。
数学的には、パルス光源のスペクトルは、光源のスペクトルとパルスに対応するスペクトルのコンボリューションとして表されます。そのため、スペクトル形状はパルスの繰返し周波数と変調度、OSAのOPDサンプリング速度(cm/s)によって変化します。光源のパルスの変調度は、スペクトルゴーストの信号の大きさを決めます。つまり、弱い変調からは弱いスペクトルゴーストが発生し、100%の変調(オン・オフ式パルセーション)からは非常に強いスペクトルゴーストが発生します。
図2は、狭帯域光源におけるパルスの繰返し周波数とスペクトルゴースト出現の関係を示しています。ここでは、OSA20xCに接続した1550 nmのDFB半導体レーザのスペクトルを、100 Hz~100 kHzまでの55種類のパルス繰返し周波数で測定しています。相対周波数0 THzのトゥルーピーク(灰色の水平な線)がと中心に来るよう、Y軸の周波数をオフセットさせています。この図の様子は次の3つの領域に分けることができます:(パルス周波数fpについて) fp ≤ 3 kHz、3 kHz < fp ≤ 30 kHz、fp >30 kHz。fp ≤ 3 kHzのとき、スペクトルゴーストはトゥルーピークと対称の位置にはっきりと確認でき、繰返し周波数が増加するにつれトゥルーピークから遠ざかっていきます。2つ目の領域は、最初のスペクトルゴーストがOSAのスペクトル領域を越えてしまった後の、fpが3 kHz以上のあたりから始まります。ここでは、エイリアシングまたは折り返しにより、高次のスペクトルゴーストがOSAのスペクトル領域内に出現します。3つ目のfp > 30 kHzの領域では、得られたスペクトルはCWスペクトルにぴったりと一致します。これは、光源の繰返し周波数がディテクタの帯域幅を超えてしまったからです。その結果、OSAのエレクトロニクスの能力ではパルス光源はCW光源と同じように見えることになります。
「パルスモード(Pulsed Mode)」の操作
これらの変調周波数によるスペクトル形状への影響を除去するために、OSAソフトウェアには、「パルスモード」測定の機能が付いています(図3)。インターフェログラムの「スロット時間」は光源のパルス繰返し周波数、およびOSAのOPD速度により決定され、スペクトルゴーストの出現位置に影響を与えます。スロット時間が短い時には、トゥルーピーク(光源本来の周波数ピーク)と1番初めのゴーストピークの間のスペクトル距離は大きくなります。当社のOSAにおいて、OPDのサンプリング速度は可動キャリッジの速度によって決定されます。可動キャリッジは、感度の設定を通して間接的に制御することが可能です。感度の設定が高くなるほど可動キャリッジのスピードは遅くなります。このため、OSAの感度モードを「High」で使用するとスロット時間は最小になります(つまり、本来見たい光源のピークとゴーストの間の間隔は最大になります)。パルスモードではソフトウェアが異なる感度設定(もしくはOPDのサンプル速度)のいくつかのスペクトルを取得し、それぞれの感度設定で変化するスペクトル特性を除去します。このとき感度は、「low」から始まり、だんだんと高くなります。「High」に達すると、感度は周期的に変化しながら再び「low」に戻ります。こうして取得されたスペクトルは最小値をホールドする機能を使って合成されます。スペクトルゴーストの位置は感度設定(OPDの速度)により変わるので(図4左)、このパルスモードでの測定の結果、スペクトルゴーストを低減することができます。パルスモードボタンは、「Sweep」または「Instrument」メニューの中にあり、実行中の掃引が完了してから開始できます。
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図3:パルスモードのOSAソフトウェアのスクリーンショット。アイコンは赤い丸で示されています。
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図4:(左)1 kHzのパルス光の狭帯域光源により、(上から下の順に)「low」、「Medium-Low」、「Medium-High」、「High」の感度設定で測定されたスペクトル(OPDサンプル速度は上から下の順で遅くなっています)。(右)左のスペクトルの最小値をつなげて得られたものなので、左下のスペクトルに大よそ似た姿になっています。
狭帯域光源
1550 nm(193.7 THz)で発光するDFB半導体レーザを狭帯域光源として用い、CWおよびパルス動作させてOSA203を用いて測定しています。この半導体レーザは、fp = 100 Hz~100 kHzの繰返し周波数で変調されています(コントローラITC4001使用)。それぞれの光源の変調周波数設定において5回平均のスペクトルが取得されました。CWスペクトルは高感度モードで、パルススペクトルは高感度モードとパルスモードの両方で取得されています。パルスモードでは、平均化はできませんが、その代わりに、4つの異なる感度設定に対してそれぞれ5回測定したスペクトルについて、最小値ホールドの機能が使用されています。
図5では、CWモードの光源、および100 Hz~100 kHz間の異なる4つの繰り返し周波数におけるスペクトルを示しています。周波数が増大するにつれ、スペクトルゴースト(高感度モードで記録)はレーザのトゥルーピークから離れていき、100 kHzでほぼ同一のスペクトルを得ることができます。
図5: 1550 nm(193.7 THz)の狭帯域パルス光源において測定されたスペクトル。繰返し周波数(左から右に):100 Hz、1 kHz、13 kHz、100 kHz。黒線: CWの測定、青線: 高感度で測定されたパルス光源、赤線: パルスモードを用いて測定されたパルス光源。下段のグラフは上段のグラフと同じデータですが、周波数目盛りの範囲が小さくなっています(ズームされています)。
広帯域光源
利得チップを自然放射増幅光(ASE)モードで駆動し、36.4 nm(15.2 THz)の半値全幅(FWHM)で850 nm(352.9 THz)を中心波長とする広帯域光を発生させます。CW光およびfp = 100 Hz to 100 kHzの繰返し周波数のパルス動作によるスペクトルを測定するのにOSA201Cが使用されました。ASE発光のダイオードを、デューティー比50%の矩形波で変調します(コントローラITC4001を使用)。高感度モード(CWおよびパルス光源に対して)を使用し、合計で10回測定したスペクトルの平均を取得しています。パルスモード(パルス光源に対して)では平均化ができませんが、4つの異なる感度設定でそれぞれ5セットデータを取得し、最小ホールド機能を用いてスペクトルが得られています。
一般的にスペクトルゴーストは、広帯域のスペクトルピークでは狭帯域のスペクトルピークに比べ見えにくくなっています。しかし、ノイズフロアは高くなりますし、図6のようにスペクトルゴーストは1 kHzおよび13 kHzの繰返し周波数においてはっきりと見ることができます。狭帯域光源と同様に、スペクトルゴーストは繰返し周波数が増大するにつれてトゥルーピークから遠ざかります。100 kHzの繰返し周波数においては、高感度、パルスモードのどちらを使用した測定もCW測定とよく合うようになります。ここで示されているように、ピークの形はCWスペクトルとパルススペクトルで僅かに異なっています。これは、OSAの動作特性からではなく、レーザーチップの温度の減少などによるパルス動作中の実際のパルスの形の変化によるものです。
図6: 850 nm(352.9 THz)の中心波長(周波)の広帯域光源のパルス光によって測定されたスペクトル 表示されている繰返し周波数は、100 Hz、1 kHz、13 kHz、100 kHz。上段はピークを中心とした全波長域、下段は ±50 THzの範囲を示しています。黒線: CW、青線: 高感度で測定したパルス光源、赤線: パルスモード。
一般的に、低い繰返し周波数で広帯域のピークを測定する際は以下の点にご注意ください。インターフェログラム内のほとんどの情報はゼロバースト付近で得ているため、図7のようにゼロバーストがディテクタに光があたらない場所と一致した場合、ピークは全て失われることになります。
図7: 広帯域光源でのゼロバーストがパルスと一致した場合(青い曲線)と、OPDがゼロのところで光がディテクタに届かない場合(赤い曲線)のそれぞれで測定されたインターフェログラム(左)と対応するスペクトル(右)。
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図8:(上)広帯域のフェムト秒レーザから取得したインターフェログラムの中央部分。(下)OSA201を用いて取得したスペクトル(赤線)の測定値、および走査型回折格子ベースのOSAを用いて取得したリファレンススペクトル(青線)の測定値。
フェムト秒パルスレーザ
OSA201Cを用いて、広帯域のフェムト秒レーザ(OCTAVIUS-85M-HP)のスペクトルを測定しました。このレーザの繰返し周波数は85 MHz、パルス幅は10 fs、ファイバに入射する平均パワーは300 µWです。OSAの設定は、低分解能、高感度、スペクトル平均5回、アポダイゼーション無しとしました。レーザからの出力光はOSAに接続されたパッチケーブル(ファイバSM600:NA 0.12、680 nmでのモードフィールド径 4.6 µm)に集光されます。
図8はデータ取得中に得られたインターフェログラムを示していますが、信号の無いスロットは現れていません。レーザの繰返し周波数85 MHzはOSAのディテクタの帯域幅40 kHzを大きく超えているため、これは期待された通りの結果です。さらに、このOSAで測定されたスペクトルは、回折格子型のOSAで得られた参照用のスペクトルとも大変良く一致しています。この参照用のスペクトルは、各波長において適切な信号が得られるよう、ゆっくりと走査して測定されたものです。
Item # | Frequency Range | Level Sensitivity (Click for Graph)a |
---|---|---|
OSA207C | 833 - 10 000 cm-1 (12.0 - 1.0 µm) | Absolute Power Power Density |
OSA205C | 1786 - 10 000 cm-1 (5.6 - 1.0 µm) | |
OSA305 | ||
OSA203C | 3846 - 10 000 cm-1 (2.6 - 1.0 µm) | |
OSA302 | 4000 - 40 000 cm-1 (2.5 µm - 250 nm) |
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OSA20xCのキャビティをパージするためのホース接続部
光スペクトラムアナライザを用いたガスの検出および識別
当社の多くの光スペクトラムアナライザ(OSA)は、多数のガスが特徴的に吸収される中赤外域(MIR)を含むスペクトル領域での検出が可能です(右の表参照)。さらに、全てのOSAに付属するソフトウェアは、分光分野で基準となっているHITRANデータベースファイルをサポートしています。このファイルは測定された微量のガスを識別するのに利用できます。これらのOSAは、複数の検体に同時に対応可能で、また、干渉計キャビティをトレースガスでパージする際に用いるホース接続部(当社のドライエアサーキュレーターユニット)に対応しています)があるため、自作のガス検出システムに組み込みやすくなっております。
実験セットアップ
ガス検出のセットアップは、下の写真でご覧いただけます。安定化光源より発光された広帯域の中赤外光は、フッ化ジルコニウム(ZrF4)ファイバ()から空間に出力、コリメートされ、試料チャンバ内にガス検体が入ったマルチパスセル()に送られます。チャンバの両端は、透明で気密性のある窓によって密閉されています。チャンバの両側に付いている金製のミラーが多重反射を発生させることで、測定感度が上がります。光源に近い方のミラーの中央には穴が開いており、これがチャンバに光が入射および出射するための光路となります。検出システムから出射した光は、長焦点距離レンズによってコリメートされ、D型ミラーで反射されて、 OSA203C()の自由空間ポートに入ります。チャンバ内の温度は上昇後、測定中にガスの吸収線が変動しないよう一定に保たれます。
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OSA203Cを使用したガス検出システム。チャンバ内部に密閉されたガスの検出感度を高めるため、試料チャンバにマルチパスセルが構成されています()
実験セットアップの使用部品(インチ規格)一覧 (ミリ規格の部品一覧はこちらからご覧いただけます) | ||
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Item # | Qty. | Description |
Light Source | ||
SLS202La | 1 | Stabilized Fiber-Coupled Light Source, 450 nm - 5.5 µm (Not Shown) |
FB2000-500 | 1 | Ø1" Bandpass Filter, 2.0 µm CWL, 0.5 µm FWHM (Not Shown) |
MZ21L1 | 1 | ZrF4 Multimode Fiber Patch Cable, SMA905 Connectors |
F028SMA-2000 | 1 | SMA905 Fiber Collimator, AR Coated: 1.8 - 3.0 µm |
POLARIS-K1b | 1 | Polaris® Ø1" Kinematic Mirror Mount |
AD11NT | 1 | Unthreaded Adapter for Ø11 mm Cylindrical Components |
Detection | ||
OSA203C | 1 | Optical Spectrum Analyzer, 1.0 - 2.6 µm |
TC200c | 2 | Temperature Controller |
MB1218 | 1 | 12" x 18" Aluminum Breadboard |
CF125C | 3 | Clamping Fork with Captive Screw |
Other Optomechanics | ||
RS2 | 6 | Ø1" Pillar Post, Length = 2" |
RS3 | 1 | Ø1" Pillar Post, Length = 3" |
RS4 | 2 | Ø1" Pillar Post, Length = 4" |
BA2F | 9 | Flexure Clamping Base |
実験セットアップの使用部品(インチ規格)一覧 (ミリ規格の部品一覧はこちらからご覧いただけます) | ||
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Item # | Qty. | Description |
Beam Path Into and Out of Multipass Cell | ||
LB4374 | 1 | Uncoated, Ø1", f = 1000 mm Bi-Convex UV Fused Silica Lens |
CP33 | 1 | Post-Mountable, SM1-Threaded Cage Plate for Ø1" Optics |
CM750-200-M01 | 2 | Ø75 mm, f = 200 mm Protected Gold Concave Mirror (One Mirror Contains a Center Hole, Similar to Our Herriott Cell Mirrors) |
KS3 | 2 | Kinematic Mount for Ø3" Mirrors |
VPCH512 | 2 | Ø2.75" CF Flange with CaF2 Window, 180 nm - 8.0 µm |
N/A | 1 | Sample Chamber |
C1513 | 1 | Kinematic V-Clamp Mount |
PM4 | 2 | Clamping Arm (One Clamping Arm is Included with Each C1513 Mount) |
P6 | 1 | Ø1.5" Mounting Post, Length = 6" |
PB2 | 1 | Base for Ø1.5" Mounting Posts |
PFD10-03-M01 | 1 | 1" Protected Gold D-Shaped Pickoff Mirror |
KM100D | 1 | Kinematic Mount for 1" D-Shaped Pickoff Mirrors |
MB624 | 1 | 6" x 24" Aluminum Breadboard |
測定されたスペクトルのピーク同定
実験用のスペクトルが取得できたら、左下の図のように、試料チャンバ内にあると推測されるガスまたはガス混合体を選択します。推測するガス種の選択数に上限はありませんが、より少なく選択した方が特定しやすくなります。OSAソフトウェアには、アセチレン(C2H2)、水蒸気(H2O)、二酸化炭素(CO2)に関するHITRANの詳細なリファレンスが付属しており、追加のリファレンスをHITRANデータベースからダウンロードすることも可能です。OSAのファイルフォーマットでに既に保存されているスペクトルも、リファレンスとして利用できます。詳細は、マニュアル内の「リファレンス(References)」の章をご覧ください。
試験環境に合わせて測定結果を説明するために、リファレンススペクトルをシフトさせることも可能です。ガス混合体の場合(つまり、2つ以上のリファレンススペクトルを用いてフィットさせる場合)、ソフトウェアは測定されたスペクトルを再現するために各リファレンスの強度を調整します。右下のグラフのように、フィットのアウトプットは測定されたスペクトル、使用した(もしくは変換された)リファレンススペクトル、およびリファレンススペクトルの合計に関して、比較表示します。
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リファレンスフィット(Reference Fit)設定タブ内で、チェックボックスはどのガスがフィットするかを示すために利用されます。吸収線は、fixedまたはfreeのどちらかで、後者の場合、ソフトウェア内でリファレンススペクトルをシフトさせることができます。HITRANリファレンスの測定条件も表示されています。
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「Reference Fit」内の「Result」タブでは、フィットしたスペクトルが測定されたスペクトルと同時に表示されます。フィットしたスペクトルは、強度調整されたリファレンススペクトルの合計です。それぞれのガスのリファレンススペクトルも同様に表示されます。
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