自由空間型の電気光学(EO)変調器チュートリアル


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電気光学(EO)変調器の概要
- はじめに
- 静的な位相リターダンス(SPR)
- EO位相変調器
- EO偏光変調器
- EO振幅(強度)変調器
- 振幅(強度)変調器におけるSPRの影響
- 振幅(強度)変調器の補償
- 補償方法
- 温度の影響を受けない振幅(強度)変調器
- 当社製の筐体内での動作
- EO変調器の駆動

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Figure 1.1 EO変調器に使用される典型的なXカットのLN結晶の概略図
はじめに
当社の自由空間型の電気光学(EO)変調器は、自由空間ビームを最大100 MHzの速度で変調することができます。酸化マグネシウム(MgO)添加のニオブ酸リチウム(LN)をベースとしており、効果的なEO応答性を有し、幅広い波長範囲でご使用いただけます。LNは複屈折性のある一軸性のEO結晶であり、一般的にFigure 1.1のような形状で使用されます。 この結晶は、結晶軸に対してカットされており、光はx軸に沿って伝搬し、駆動電圧はz軸方向に印加されます。これにより、位相変調器と振幅(強度)変調器のどちらのEO応答性も最大になります。以下では、関係する基本原理と、位相、偏光、振幅(強度)変調器におけるこの結晶の動作原理について説明します。
この結晶形状の重要な点は、光が結晶のy軸とz軸に沿った2つの直交する直線偏光でのみ伝播できることです。結晶には複屈折性があるため、2つの偏光は異なる屈折率(ny、nz)を有し、これにより伝搬速度が異なります。 屈折率の差(ny - nz)は、Δnで示されます。LNの場合、nyはnz よりも大きいため、y軸(スロー軸)に沿って偏光した光はz軸(ファスト軸)に沿って偏光した光よりも遅く進みます。その結果、光が結晶に入射すると、2つの直交する直線偏光は異なる速度で進み、結晶の長さLのΔn倍の光路差に相当する位相差で結晶から出射します。
静的な位相リターダンス(SPR)
結晶固有のΔnに起因する位相差は、一般に静的な位相リターダンスとして知られており、ここではSPRと表します。SPRは、Δn、波長λ、結晶の長さLの関数です。 係数が2piの場合はSPRをラジアンの単位で表し、係数が360の場合は度(°)の単位で表します。
SPR(ラジアン) = 2pi ⋅ Δn ⋅ L / λ またはSPR (degrees) = 360 ⋅ Δn ⋅ L / λ
LNは電気光学材料であるため、結晶のz軸に沿って電圧を印加すると、nyとnz が電気的に変調され、Δnが電圧の関数となり、位相および振幅(強度)変調器として機能します。SPRは位相変調器の動作には影響しませんが、振幅(強度)変調器の動作には重大な影響を与える可能性があることがわかります。 SPRは、環境の影響や、結晶およびEOモジュールの製造工程におけるばらつきの影響を受けます。したがって、SPRはモジュール固有であり、用途によっては、0~2piの範囲で変動する可能性があるため、SPRを測定し、補正する必要があります。*
*注:結晶から出射する直交した偏光の位相リターダンスについては、結晶が長く、位相リターダンスが2piの何倍にもなる場合についても大方を考慮に入れています。しかし、単一波長の動作では、実際に重要なのは0~2piの間の「正味」の位相リターダンスだけです。

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Figure 1.3 位相変調器の出力位相の応答

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Figure 1.2 位相変調器の構成図
EO位相変調器
最も効率的なLN位相変調器(PM)の使用方法では、Figure 1.2に示すように、印加電圧(z軸)と同じ結晶軸に沿って垂直に偏光した光を入力します。 光は主要な複屈折軸の1つだけに沿って直線偏光しているため、SPRの影響は受けず、出力偏光は垂直偏光のままです。多くの用途では、変調器の出力での伝搬よって発生する絶対位相遅延の影響は受けません。問題になるのは印加電圧による変調位相シフトのみです。
印加された変調電圧V(t)はnz を変調し、実効的な光路長を変化させることで出力光の位相シフトを変化させます。Vpiと呼ばれる半波長電圧は、pi (180°)の位相シフトを発生させるのに必要な変調電圧を示します。Figure 1.3は、印加されたV(t)による電圧誘起位相シフトを示しています。出力光の位相シフトが印加電圧に線形に比例していることがわかります。Vpiの実際の値は、多くの要因(例えば、結晶の寸法や光の波長)の関数となっています。標準的な当社のPMの場合、633 nmにおけるVpiは約150 Vです。

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Figure 1.4 偏光変調器の構成図
EO偏光変調器
偏光変調器では、結晶は変調器の筐体に対して45°回転しますが、入力偏光子は垂直方向のままです。Figure 1.4にこの構成を示しています。この結果、入力光は結晶のy軸とz軸に沿った2つの直線偏光に均等に分岐します。これらの2つの成分は、結晶中を伝搬する際に位相差を生じます。これは、上で説明したSPRと同じ原理です。ここでは、印加電圧によって発生する別の位相リターダンスについて説明します。これを電圧誘起位相リターダンス(VPR)と呼びます。
印加電圧V(t)は、y軸とz軸の両方に沿って屈折率を変化させ、結晶の位相リターダンスを変化させます。この付加的な電圧誘起の位相リターダンスはVPRと呼ばれ、次式のように全位相リターダンス(TPR)に影響を与えます。
TPR = SPR + VPR
ここでは、TPRが結晶の正味の位相リターダンスを決定します。例えば、この場合、TPRがpiに等しいとき、結晶は半波長板のような役割を果たし、水平な直線偏光を出射します。TPRがpi/2の場合、1/4波長板のように機能し、入射した直線偏光を円偏光に変換して出射します。その他の位相差では、様々な楕円偏光状態が得られます。このように、45°回転したLN結晶は、偏光変調器として機能します。Figure 1.5に標準的な例をいくつか示しています。

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Figure 1.5 入射偏光が垂直であると仮定した場合の、出射偏光状態と結晶によって発生する全位相リターダンスの関係

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Figure 1.7 2つの偏光子を平行に配置した、理想的な振幅(強度)変調器の透過率グラフ

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Figure 1.6 2つの偏光子を平行に配置した振幅(強度)変調器の構成図

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Figure 1.9 2つの偏光子を垂直に配置した、理想的な振幅(強度)変調器の透過率グラフ

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Figure 1.8 2つの偏光子を垂直に配置した、振幅(強度)変調器の構成図
EO振幅(強度)変調器
振幅(強度)変調器を構成するには、直線偏光子を結晶の出射側に配置して、偏光状態の変化を振幅(強度)の変化に変換します。Figure 1.6では、2つ目の偏光板を1つ目の偏光板に対して平行に配置した構成例を示しています。出射側の偏光子を透過する光の割合は、結晶から出射する光の偏光状態に依存します。偏光子にアライメントされた偏光成分のみが偏光子を透過します。Figure 1.7に示すように、透過関数は次の式で与えられます。
T = cos2(TPR/2)
ここでは、前のセクションと同様に、TPR = SPR + VPRです。
振幅(強度)変調器の場合、Vpiはpi (または180°)のVPRを発生させるのに必要な電圧を示します。TPR = 0の場合、入射から出射まで偏光状態は変化せず、出力偏光子の透過は最大となります。TPR = piの場合、出射偏光は水平に変化し、出力偏光子の透過は最小となります。さらにTPRを2pi (または360°)に調整すると、透過率は再び最大になります。なお、cos2透過関数は周期的であるため、2piの倍数であれば透過率は同じであることにご注意ください。
また、Figure 1.8に示すように、出射側の偏光子を水平方向(より一般的には、入射側の偏光子に対して垂直)に配置した場合、Figure 1.9の曲線はpiだけ水平軸に沿って移動します。この結果、Figure 1.9の透過関数のようになり、TPR = piの時に最大透過率となります。

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Figure 1.10 こちらのグラフは、任意のSPRが透過応答性に対して与える影響を示しています。
振幅(強度)変調器におけるSPRの影響
実際には、SPRの値は予測できないため(0~2piの間の値になる可能性があります)、最大透過率はV = 0 Vでは発生しない可能性があります。SPRは、波長、温度、結晶の正確な寸法などの多くの要因の関数となっています。箱から出した直後のEO変調器のSPRはおそらくゼロ以外です。つまり、V = 0 Vの場合、透過率は0~100%のいずれかの値となっています(反射と吸収による損失は無視します)。
Figure 1.10の透過率曲線はSPRの効果を示しています。この例ではSPRを0.7piとしていますが、変調器のSPRは0~2piの間であればどこでもよいということに注意ください。この例では、0.7piのSPRで動作点(V = 0 V)の透過率を約20%に設定しています。したがって、Vpiの印加電圧時はSPRにVPRのpiを追加し、相対透過率は約80%になります。この例でSPRが0.7piとすると、最初の透過率の最小値に達するには、さらに0.3piのVPRを追加する電圧を印加する必要があります。あるいは、最大透過率に達するために、1.3piのVPRを誘発する電圧を追加する必要があります。

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Figure 1.11 こちらのグラフは、電圧の透過応答性に対して任意のSPRが与える影響を示しています。CPRがSPRに追加され、新しいV = 0 V動作点が設定されます。
振幅(強度)変調器の補償
SPRは0Vで任意の透過率を得られますが、多くの用途では変調器をpeak (T = 100%)、quadrature (T = 50%)、null (T = 0%)のような特定の伝送点に設定する必要があります。このような場合、目的の動作点に到達するためにSPRを補正しなければなりません。これは、補償位相リターダンス(CPR)を追加して行います。CPRを追加する方法については、次のセクションで説明します。TPRには3つの要素があります。
TPR = SPR + VPR + CPR
Figure 1.11 は透過関数と、前のセクションで使用したゼロではないSPRを示しています。この例では、0.8piの補償を追加してquadrature動作点(すなわち、V = 0 Vにおける、TPR = 3pi/2およびT = 50%)としています。任意の動作点に達するために、任意の値の補償を追加または差し引けます。
また、調整可能な補償板を必要としない特定の波長用に、カスタム仕様の変調器を作成することも可能です。詳細については当社までお問い合わせください。

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Figure 1.13 Quadrature Operating Pointにおける振幅(強度)変調器の透過性能

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Figure 1.12 光補償機能付き振幅(強度)変調器の概略図
補償方法
お使いの用途における特定の動作点を設定するために補償が必要な場合、2つの主な補償方法(電気的または光学的補償)のどちらかを用いることができます。電気的補償方法は、変調電圧に加えてDC電圧(VDC)を印加するだけです。Figure 1.11の例では、透過率が50%の地点に到達するために0.8VpiのDC電圧を加える必要があります。CPRの式は次のようになります:
CPR = pi ⋅ VDC / Vpi = 0.8pi
静的なDC電圧を調整して印加することでCPRを加えることができます。この電気的なDC補償方式はほとんどの波長でうまく機能しますが、短い波長(400~600nm)の光は、印加されたDC電界を打ち消す内部電界を発生させる可能性があります。
しかし、もう一つの方法である光学的補償は、すべての波長で一様に機能します。通常、これにはバビネソレイユ補償板のような補償量の調整が可能な波長板を使用します。Figure 1.12に示すように、補償板を結晶の軸にアライメントすると、光学的に調整可能なCPRが発生します。これは、純粋な電気的補償のために非常に高い電圧が必要となるような、長波長での非共振型の振幅(強度)変調器への使用に適しています。
光学的補償の利点の一つは、完全変調に必要な絶対電圧を低減できることです。 幅(強度)変調器の例では、動作点をpeak (T = 100%)またはnull (T = 0%)に設定すると、フルVpi電圧を最小透過率と最大透過率の間で変動させれば良いことになりますす。一方、動作点をquadrature (T = 50%)に設定すると、必要な電圧範囲は-Vpi/2 to +Vpi/2となります。これは、駆動電圧の絶対値が実質的に半分になることを意味しますが、Figure 1.13に示すように、VPRの追加と削減の両方が可能な双極性の電源が必要となります。

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Figure 1.14 光補償機能付き温度補償振幅変調器の概略図
温度の影響を受けない振幅(強度)変調器
LNベースの変調器の厄介な問題の一つは、熱光学効果によって結晶の屈折率が温度依存性を持つことです。当社の振幅(強度)変調器には、1つ目の結晶に対して90°回転させた2つ目の結晶が付いているため、出力偏光状態が温度によってドリフトしません。Figure 1.14はこの構成を示しています (注:当社の位相変調器(PM)には長さ40mmの結晶が1つ、振幅(強度)変調器(AM)には長さ20mmの結晶が2つ入っています)。
各結晶は次式のように独立してSPRに影響を与えます:
TPR = SPR1 + SPR2 + VPR + CPR
ここで、SPR1は1つ目の結晶、SPR2は2つ目の結晶から発生する静的な位相リタ ーダンスです。2つ目の結晶は90°回転しているため、その複屈折軸(y、z)も回転しています。したがって、2つ目の結晶のSPRは1つ目の結晶のSPRを補償します。結晶の長さが完全に一致していれば、SPR1 = -SPR2となり、以下の式が成立します。
TPR = VPR + CPR
このようにして、整合した結晶はSPRの熱変動を補償し、変調器の温度感度を0.01 rad/°C以下にします(単位は°Celsius)。この整合した結晶はVPRを補償せず、SPRのみを補償するため、変調効率には影響を与えません。ただし、製造上の制約により、SPRが多少残ります。結晶の長さがμm-scaleスケールの小さな不一致であっても、SPRは0~2piの値になる可能性があります。整合した結晶のペアにより、熱補償が効果的に行われますが、動作点を設定するには、前のセクションで説明した補償方法のいずれかを使用する必要があります。

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Figure 1.16 EO変調器の筐体に対する偏光子の向き(振幅変調器の場合)

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Figure 1.15 EO変調器の筐体に対する偏光子の向き(位相変調器の場合)
当社製の筐体内での動作
Figure 1.15と1.16は、変調器の筐体に対するLN結晶と直線偏光子の向きを示しています。EO変調器には、LN結晶(振幅変調器には2個)と外部駆動電圧を印加する電子回路だけが入っています。前のセクションで説明した直線偏光子や光学補償板は含まれていません。位相変調器は、別途、垂直方向に配置した入射側偏光子(または偏光レーザ光源)のみを必要としますが、振幅(強度)変調器は入射側偏光子と出射側偏光子の両方を必要とします。
Figure 1.15は標準的な位相変調器(PM)を示し、Figure 1.16は振幅(強度)変調器(AM)の構成を示しています。PMの結晶は2つのAMの結晶と同じ長さなので、どちらのモデルでも、任意の波長に対する半波長電圧は同じくらいの大きさです。より正確には、位相変調器の単一偏波では、振幅(強度)変調器の2つの直交偏波間の正味のEO係数よりも高い有効EO係数となるため、PMは常にAM同等よりも低いVpiを有します。
レーザ光源がすでに垂直直線偏光であれば、どちらのタイプの変調器でも入力側の偏光子は必要ありません。これらの変調器を別の偏光スキームで動作させることも可能ですが、その方法についてはここでは説明していません。詳細については当社までお問い合わせください。
EO変調器の駆動
自由空間型変調器の駆動は、特殊な電子回路が必要となります。当社の高電圧増幅器HVA200は、低ノイズで、±200 Vの出力と1 MHzの帯域幅を有し、一定の動作条件において、当社の広帯域非共振型EO変調器を駆動するのに適しています。400 Vの出力振幅により、波長が約1200 nmまでの非共振AMと、全波長にわたる非共振PMをフル変調することができます。また、振幅(強度)変調器のquadrature pointへの電気的補償を可能にする調整可能なDCバイアスを提供し、±200 Vの両極性出力振幅を効果的に利用します。
非共振型の変調器を1 MHzより高い周波数で駆動したり、より長い波長で駆動したりするには、十分な出力パワー、直線性および帯域幅を有する専用の増幅器が必要です。さらに、非共振型変調器の場合、ドライバは純粋な容量性負荷を駆動できることが必要です。これらのデバイスは標準的な50 Ωの入力インピーダンスは有していません。
当社では、入力電圧要件を低減した共振型変調器もご用意しております。これらの変調器(AMとPMの両方)には、特定の周波数で共振する内部回路が付属しています。これにより、外部正弦波駆動信号の振幅を、EO結晶が必要とする高い電圧レベルまで効果的に増幅されます。トレードオフは、これらの変調器が1 MHz~100 MHzの特定の設計周波数でしか動作しないことです。20 MHzで動作する共振型変調器は標準品としてご用意しており、他の周波数についてのご要望も承ります。
共振型変調器と非共振型変調器の詳細については製品ページをご覧いただくか、当社までお問い合わせください。
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