OCTを用いた薬錠の構造の研究

 

主な研究者:

J. M. A. Mauritz, R. S. Morrisby, R. S. Hutton, C. H. Legge, C. F. Kaminski

薬の錠剤コーティングを調整すると、製剤の有効成分の放出を遅らせるなど薬の放出が制御できます。このように薬錠のコーティング構造の研究は製薬業界にとって重要な研究であると言えます。 従来の薬錠のコーティングの評価には、X線CT、テラヘルツ(THz)パルスイメージング、核磁気共鳴イメージング、ラマン分光法や近赤外(NIR)分光法が用いられてきました。 これらの方法にはそれぞれ長所と短所があります。例えばX線イメージングでは高い空間分解能が実現できますが、錠剤の中の濃度のバラツキを明確には識別できません。一方でTHzパルスイメージングでは画像分解能は低くなりますが、化学物質や濃度の違いに対しては高い画像感度を有します。 このような背景もあり、近年の錠剤のコーティング構造の研究分野では、光コヒーレントトモグラフィ技術に対する期待が高まっています。

他の観察方法と比べると、OCTは高速イメージング(1秒25フレームを超える速度)、高い空間分解能(5 μm未満)および使いやすさを実現する非破壊手法であるので、製造段階での工程内品質管理で利用しやすい技術であると言えます。 またOCT技術は、広く用いられているTHzパルスイメージングを補完する特長を有しています。すなわち、近赤外域とTHzの波長では吸収や分散の断面が異なりますが、似たようなデータを生成します。 

錠剤評価でのOCT技術の有用性を検証するために、Mauritzらは当社のスペクトルレーダOCTシステム(中心波長: 930nm)で錠剤のコーティングの測定を続けて行いました。このシステムでは、横軸方向の解像度は9 μmで、理論上の軸解像度は 6.5 μm未満、ライン速度は5 kHz、そしてイメージング速度は1秒あたり4 フレームでした。

OCT Image of Coated Tablets
図 1:異なるコーティングのOCT走査画像。図Aはコーティング無の錠剤。図Bは表面コーティング付きの錠剤。図Cは腸溶性コーティング(トップ層)および表面コーティング(中間層)が付いた錠剤。矢印は材質の界面にあるRIの変化を示します。

OCT技術では、錠剤コーティングの層間の屈折率(RI)の変化を利用して構造を識別します。 図1では、異なるコーティングの付いた3種類の薬剤のOCT画像を比較します。 図1Aはコーティング無の薬錠です。 黒い線は、薬錠と空気の界面における大きなRIの変化を表しています。 表面上の曲線とデコボコが明瞭に画像化されています。 図1Bの錠剤には、表面コーティングが一層施されています。 空気とコーティングの界面で見られるRIの変化は比較的小さく、大きなRIの変化を示す黒い線は、錠剤の核部分との界面を表しています。 これらの界面は画像では矢印で示されています。 このような変化は、コーティング層が均一でないことを示しています。 図1Cの錠剤には腸溶性のコーティング(このコーティングによって薬剤の有効成分は小腸で放出されます)と表面コーティング(内部層)の両方が施されています。 いずれの場合においても光の吸収によって、深さプロファイルは指数関数的に不鮮明になります。

これらの画像からもわかるように、光の屈折率や吸収特性を利用すると、錠剤に施された化学組成や濃度のコーティングを違いを明瞭に識別することができます。 例えばコーティング層の中にある黒い点は、コーティング層が不均一であることを示しており、このような濃度のバラツキが、コーティングの溶解プロセスに影響することが明らかになっています。

この分野で使用されている他の技術と比べて、OCTはコスト効果が高く、装置の場所を取らず、高速イメージングを実現します。OCTは製薬業界における錠剤コーティングの研究で非常に期待されている技術です。 OCT技術は高速で非破壊的なイメージング手法であるので、製造中と製造後の錠剤の検査の利用に適しています。その結果、固形薬剤の溶解プロセスの研究を発展させることのできる技術となっています。

参考文献:

J. M. A. Mauritz, R. S. Morrisby, R. S. Hutton, C. H. Legge, C. F. Kaminski. Journal of Pharmaceutical Sciences, DOI: 10.1002/jps.21844 (2009).


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