ヒトの髪の毛の構造の研究へのOCT技術の適用

 

主な研究者:

M. V. R. Velasco, A. R. Baby, F. D. Sarruf, T. M. Kaneko, R. E. Samad, N. D. Vieira Júnior, and A. Z. Freitas

ヘアケア製品の分析や評価、そしてそれらのヒトの髪の毛への影響の研究は、近年の化粧品科学の分野で非常に注目を集めてきました。 絶え間なく製品開発が進められているのに伴い、製品の効果と安全性を検証するための非侵襲で信頼性の高い技術が求められています。

光コヒーレンストモグラフィ(OCT)は、サンプル構造の観察において断層画像と体積画像の両方が取得できる非侵襲なイメージング技術として期待されています。 OCP930SR OCTシステム(中心波長:930nm、軸分解能:6.2μm)を採用することで、研究者たち1は、ヘアケア製品が引き起こすヒトの髪の毛の形態変化を画像で確認できることを検証しました。 この研究では、アフリカ系人種の髪の毛を、18%のチオグリコール酸アンモニウムの溶液に浸漬して、その前後の画像を取得しました。チオグリコール酸アンモニウムは、市販されている縮毛矯正製品に一般的に含まれている活性成分です。 図1では、髪の毛サンプルの横断面と縦断面の画像を、浸漬処理の前後でOCTイメージングで取得しています。

髪の毛をストレートに矯正する溶剤を適用する前では、毛髄質(最内部)、毛皮質(中間層)とキューティクル(外側表面部分)の3層の髪の毛の構造が、OCTイメージングの横断面画像 (図1a)や、縦断面画像(図1c)により、明らかに観察できます。 ここで取得された画像によって、研究者たちは溶剤処理前の髪の毛の外径および毛髄質の直径を測定できました。 溶剤処理前の画像と比較すると、溶剤処理後の画像では、毛髄質と毛皮質が認識できないことがわかります(図1bおよび1dを参照)。さらに毛髄質の直径も測定不能となっています。 髪の毛の繊維は、外部の刺激に対して極めて強い耐性を有するにもかかわらず、この縮毛処理溶剤は、繊維の形態構造に大きな変化をもたらしました。 特に、チオグリコール酸アンモニウムが髪の毛の内部に入り込んだことが有害な影響を与え、髪の毛内部構造の屈折率を変化させています。 このような変化が引き起こされたために、OCTイメージングでは構造の差異が見つけにくくなっています。

OCTの非侵襲のイメージング特性は、このように同じ髪の毛のサンプルをin vivoで処理の前後を通して観察する必要のある実験などの用途に適します。 さらにこのイメージング手法によって、主な3層の髪の毛の構造が識別できるということは、OCT技術が化粧品科学以外の髪の毛のイメージングを必要とする分野でも利用できることを示しています。 例えば、アフリカ系人種の髪の毛では、中心軸に対して直径が変わることが知られていますが、アジア系の人種の髪の毛は、一般的には直毛の性質を持ち、軸に対して円形の断面を有します。 このような理由で、非侵襲でヒトの髪の毛の構造や形状が認識できるOCT技術は、髪の毛から人種を特定する手法としてバイオサイエンスや法医学の分野で注目を集めています。

Figure 1a
(a)
Figure 1b
(b)
Figure 1c
(c)
Figure 1d
(d)

図1: 髪の毛のサンプルのOCT画像

アフリカ系人種の髪の毛のサンプルのOCT画像(a) この画像では髪の毛の断面構造において、毛髄質、毛皮質とキューティクルの主な3層が識別できます。 (b)18%のチオグリコール酸アンモニウムの溶液で処理した後の髪の毛の繊維の断面画像。 ここでは毛髄質と毛皮質が識別できなくなっています。 (c)と(d)は髪の毛の縦断面画像ですが、(a)と(b)で見られたのと同じ結果となっています。

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Reference:

M. V. R. Velasco, A. R. Baby, F. D. Sarruf, T. M. Kaneko, R. E. Samad, N. D. Vieira Júnior, and A. Z. Freitas, Skin Research and Technology, 15, 440-443 (2009).


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