量子カスケードレーザー(QCL)とインターバンドカスケードレーザー(ICL)の発熱によるロールオーバー


量子カスケードレーザー(QCL)とインターバンドカスケードレーザー(ICL)の発熱によるロールオーバー


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量子カスケードレーザ(QCL)とインターバンドカスケードレーザ(ICL):印加電流のリミットと発熱によるロールオーバ

 

L-I curve for QCL laser, rollover region indicated
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図1:QCLのL-I(光出力-駆動電流)曲線例。QCLとICLレーザで典型的な非線形の勾配と、ロールオーバーの領域が見られます。動作パラメータがレーザ発振領域から発生する熱負荷を決定し、それがピーク出力に影響します。こちらのレーザは25 °Cに温度制御されたマウントに取り付けられています。

L-I curves for QCL mount held at different temperatures
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図2:これらのQCLのL-I曲線は、マウント温度がピーク動作電流値に影響をおよぼすことを示していますが、一方で温度制御マウントを使用しても、ロールオーバ値を超え、レーザを損傷しかねない駆動電流が印加される可能性を排除できないことを示しています。

量子カスケードレーザ(QCL)とインターバンドカスケードレーザ(ICL)で測定された光出力-駆動電流特性(L-I)曲線には、図1の赤枠部分に示すロールオーバの領域があります。

ロールオーバの領域にはレーザのピーク出力が含まれます。こちらの例の駆動電流はちょうど500 mAの部分にあたります。この値より高い駆動電流は、レーザを損傷する危険性があります。

レーザ動作
これらのレーザでは、半導体層構造の設計によりエネルギー準位が制御されており、電子が励起準位から制御された準位に落ちる際のエネルギー差により発光します。これらの電子は駆動電流により供給されます。

電子がレーザのエネルギの準位を降りるとき、電子は光子の形でエネルギを放出しますが、電子は光子を放出する代わりに半導体素材に熱を与えることによってもエネルギを放出します。

熱の蓄積
レーザでは、電子の準位間遷移によるエネルギを100%の効率で光子に変換することはできません。エネルギを熱として放出する電子も存在し、それにより、レーザの発振領域の温度が上がります。

レーザ発振領域の熱は、逆に電子によって吸収される場合もあります。このように余分なエネルギが加わることにより、電子がしかるべきエネルギ準位に落ちずに散乱してしまう場合があります。その後、散乱した電子は通常エネルギを光子ではなく、熱として放出します。

レーザの発振領域の温度が上がるにつれ、電子はさらに散乱し、熱ではなく光を生成する電子の割合は小さくなります。温度の上昇はまた、レーザのエネルギ準位にも変化を及ぼし、結果、電子が光子を生成しにくくする場合もあります。これらがともに作用し、レーザ発振領域の温度が上昇し、レーザが電流をレーザ光に変換する効率が低下します。

動作リミットは熱負荷によって決定
L-I曲線の理想的な勾配は、閾値電流以上では線形になることです。図1においてこの閾値電流は270 mAのあたりです。しかし、駆動電流が増加すると勾配が小さくなります。これはレーザ発振領域の温度上昇の影響です。ロールオーバは、レーザが追加した電流をレーザ光に変換できなくなったときに起こります。追加した駆動電流は代わりに熱のみを発生させます。電流値が高くなりすぎると、レーザ発振領域における局部的な高い熱によりレーザが故障する原因となります。

レーザ発振領域の温度の管理には通常、温度制御マウントが必要です。しかし、半導体素材の熱伝導率は高くないため、熱がレーザ発振領域に蓄積することがあります。図2で示すように、マウントの温度はピーク出力に影響を与えますが、ロールオーバを防ぐことはできません。

QCLおよびICLの最大駆動電流と最大光出力は、動作条件に依存します。なぜなら動作条件がレーザ発振領域の熱負荷を決定するからです。

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最終更新日:2019年12月4日


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